読書メモ

個人的な読書メモ。それ以上でも以下でもありません。

M&Aがわかる (知野雅彦, 岡田光)

M&Aがわかる (日経文庫)

M&Aがわかる (日経文庫)

  • M&Aの全体像がコンパクトに分かりやすくまとまっている。M&A担当になったら一冊目に読むべき本。
  • 統合分科会を組成してPMIを進めるような規模のM&Aを主に想定しているようなので、より小規模のM&Aに関しては別の本で補足が必要。

第1章 経営戦略とM&A

1 M&Aとは

  • 合併: 企業Aと企業Bの法人格を一つにする行為。
  • 買収: 企業Aが企業Bの全部/一部を買う行為。
  • 合併も広い意味では買収の一形態。MとAの違いにあまり大きな意味はない。
  • 提携 (Alliance)
    • 合併と買収だけでなく、提携も広義のM&A含めて言うこともある。
    • 合併と買収は支配権の獲得を意味するが、提携はそうではない。
    • 提携は狭義のM&Aの前段階の1ステップとなることも多い。

2 経営戦略とM&A

  • M&Aは戦略の一部ではなく、戦術の一つ。特に「選択と集中」戦略を実行するための戦術として重要。
  • CVC (Corporate Venture Capital) の目的

3 M&Aの目的と効果

  • 目的

    • 規模の拡大 (水平的M&A)
    • バリューチェーンの統合 (垂直的M&A)
    • 周辺事業の買収によるコア事業の強化
    • 将来性のある事業に投資して、将来のコア事業の育成を図る (Corporate Private Equity)
    • 外部イノベーションの取り込み
    • 新規市場への進出
    • 投資リターンの獲得
  • シナジー

    • シナジー: ある項目とその他の項目が関連付けられることにより実現される相乗効果。事業シナジーと財務シナジーに大別され、事業シナジーはさらに、収益シナジーとコストシナジーに分けられる。
    • 財務シナジー: 例えば、信用力の高い企業Aが、信用力の低い企業Bを買収した場合、資金調達をAが集中して行い、調達資金をBに転貸すれば、Bの資金調達コストを下げることができる。比較的短期間に確実に実現することができる。
    • 財務シナジーと比して、事業シナジーの実現難易度は高い。
    • M&Aマーケットが競争的になっており、買取価格が高騰している。なので、事業シナジーを実現しないとビジネスケースが成り立たないことが多い。
    • 買い手が想定しているシナジー価値の43%を売り手に支払うことが多い。
  • シナジーを発現させる方法

    • プレディールで重要なポイント
      • DDで、シナジーにかかる情報を整理・分析・定量化し、各シナジー項目の早期実現に関するステップを計画する。
      • いつ、どのようなプロセスで、いくらのコストでシナジーが発現するかに関する仮説を明確にする。
      • 割引現在価値で定量化する。
    • ポストディールで重要なポイント
      • プレディールで作成したPMI計画をスピード感とリーダーシップを持って実行していくこと。
      • 特にコミュニケーションが重要。
      • シナジー計画の検証と詳細化は早期に実行する必要がある。
      • PMO

4 M&Aと事業売却・分離

  • 仲間を売るといったウェットな感じになって、売り時を逃すケースが散見される。
  • 売却先とジョイントベンチャーを組成して、段階的な持ち分低下を経て完全売却するスキームが有効なこともある。

5 M&Aをめぐる利害関係者

6 M&Aをサポートするプロフェッショナル

  • ファイナンシャル・アドバイザー (FA)
    • M&Aプロセス全般に渡るアドバイスを行う。PMO、価格/契約交渉、参考価格分析、フェアネス・オピニオンの発行、等。
  • 法律事務所
    • M&Aに関するあらゆる法的サポート。法務DD、M&A契約書(SPA)の作成、交渉サポート、買収ストラクチャの法務面からの検討、監督官庁との折衝、独占禁止法対応、等。
  • 会計事務所
    • 財務・税務DD、買収ストラクチャの会計・税務麺からの検討、SPAに関する会計・税務面からのサポート、Valuation、PPA (Purchase Price Allocation)、等。
    • 規模の大きいファームは、FA業務、ビジネスDD、将来事業計画シミュレーション支援、PMI計画策定、PMI実行支援、等も行う。
  • 戦略コンサルティングファーム
    • M&Aを戦術として用いるに至るそもそもの企業戦略立案支援、ビジネスDD、事業計画シミュレーション支援、等。
  • 不動産鑑定会社
    • 買収先が保有する不動産価格の時価・含み損益の算定、等。
  • 人事コンサルティングファーム
    • 対象企業の経営陣や従業員はM&Aで非常に不安定な状況になる。彼らの不安を取り除き、安定した環境をいち早く作ることがPMIの要諦。
    • この前提となる情報を提供するのが人事DD。
  • ITコンサルティング会社
    • 対象企業のITシステムを包括的に整理・理解するITDD、IT統合計画策定、IT統合実行支援。

第2章 M&Aの類型

1 IN-IN、IN-OUT、OUT−IN

2 水平的M&A、垂直的M&A、CVC、JV

  • (1) 水平的M&A: 調達コスト削減、拠点の統廃合によるコスト削減、等
  • (2) 垂直的M&A: バリューチェーンの変革による成長性・収益性の向上
  • (3) CVC: 外部イノベーションの取り込み。例えば、アーリーステージの事業にマイノリティ投資で入り、事業の可能性に見極めが付いたら、マジョリティ投資に切り替える。
  • (4) JV: 離婚条件を予め合意しておくことが重要

3 M&Aの手法──各種組織再編手法

  • どのような手法でM&Aを行うかの検討プロセスを「M&Aストラクチャリング」と呼ぶ。
  • 手法
    • 現金で買収対象企業の株式を買い取る
      • 既存株式の買い取り
      • 三者割当増資の引き受け
    • 合併
      • 通常の合併
      • 持株会社を利用した合併
      • 現金対価の合併 (キャッシュアウトマージャ)、社債・種類株式を対価とした合併
      • 三角合併
    • 株式交換
    • カーブアウト: ある企業から特定の事業を切り出して買収する。
      • 会社分割
      • 事業譲渡

4 MBO

  • 経営陣による自社の買収
  • 上場会社の非公開化MBOが典型的 f:id:mas178:20190115174152p:plain

5 敵対的買収

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  • 敵対的とは元経営陣に対して敵対的であるということ。株主にとってはメリットがある場合もある。

第3章 M&Aのプロセス

1 一般的なM&Aプロセスの概要

  1. 買い手側のプロセスは、大きく分けて次の3つのプロセスによって構成される。

    1. 案件ソーシング
      • 候補先企業のリストアップ・初期分析
      • ショートリストの作成
      • 優先順位付け
      • アプローチ
    2. エグゼキューション
      • ストラクチャリング
      • DD
      • 企業価値評価
      • 基本合意書 (LOI / MOU) の取り交わし: 取引実行に向けた売り手と買い手の間の意欲やコミットメント、実行までの課題を明らかにする
      • 基本合意の締結を境に、初期検討と最終検討にプロセスを分割する。
      • クロージング: 最終契約締結
    3. PMI
      • PMIの準備はエグゼキューションフェーズで開始する。
      • PMI実行
  2. 売り手側のプロセス (オークション形式による売却プロセス)

    • 会社の売却方法には、会いたい方式とオークション方式がある。
    • 買い手が多く付きそうな事業であれば、オークション方式が良いことが多い。
    • 売り手として買い手に要望しなければならない事項が多く存在する複雑なディールの場合には、相対方式の方が良いことが多い。
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  3. 経営統合やジョイントベンチャー設立の場合

    • 相互にDDを行う。
    • こちらから要求したことは、相手からも要求される。

2 案件ソーシング (ロングリストからM&A対象へのアプローチまで)

  • (1) 案件ソーシングのポイント
  • (2) M&A対象企業の選定手続き
  • (3) 対象へのアプローチ
  • (4) 秘密保持契約書 (CA) の締結
  • (5) 持ち込み案件への対応

3 エグゼキューション・フェーズにおける初期検討

  • 初期ストラクチャリング
  • 初期バリュエーション

4 基本合意書 (LOI / MOU)

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  • DDの実施やPMOなどにそれなりのコストが掛かるので、一定期間の独占交渉権を要求するのが普通。
  • LOIには法的拘束力を持たさないのが普通。

5 デューデリジェンス (DD)

  • (1) DDの種類
    • 分野別: ビジネスDD、財務・税務DD、法務DD、ITDD、人事DD、不動産DD、環境DD、等
    • 買い手が行うDDをバイヤーDD、売り手が行うDDベンダーDDという。
    • フェーズ別
      • Preliminary DD: LOI締結前の限定的な情報で行うDD
      • Full DD: LOI後の本格的なDD
      • Confirmatory DD: 最終契約締結後に追加的に行うDD。最終契約の中で規定する。
  • (2) DDの目的
    • Preliminary DD
      • 対象企業・事業に関する理解と、自社戦略との整合性確認
      • ディールに関する重要論点の整理
      • 初期的バリュエーション、ストラクチャーの検討等に必要な情報収集
      • その後の Full DD のプランニング
    • Full DD
      • 詳細DDの実施、論点(価格交渉、表明保証、PMIへの影響)の整理
      • 対象企業・事業の業績改善並びに自社とのシナジー効果に関する検証
      • ディールブレーカーの有無の確認
      • PMIプロセスのプランニングに必要な情報収集
    • Confirmatory DD
      • クロージング監査を実施する場合は、そのプランニングと実施 (クロージング後)
      • PMIプロセスの準備
  • (3) DDのプロセス
    • DDは時間との戦い。どんな複雑なディールでも通常は1ヶ月程度で終わらせる。
    • プランニング
      • 目的、シナジーの評価手法、キーとなる確認事項、ディールブレーカーとなる事項の定義、ディールストラクチャ、関係当事者の利害・状況の整理、DDの範囲と手順の決定
      • これをDDのスコーピングという。
      • 体制構築、R&Rの決定
      • DDチーム間での情報共有プラン。
      • DDプロセス内のマイルストーン: キックオフMTG、複数回の中間報告会、最終報告会
  • (4) DDスコーピングにおけるポイント
    1. M&Aの目的: 全部を見ることはできないので目的を達成できるかどうかという観点から対象を絞ってDDを行う。
    2. 取得する持分割合: 割合が高いほど深く広いDDが必要。売り手は最小限にしたいという心理が働く。
    3. 企業価値評価の方法: 企業価値評価方法を予め定めた上で、その計算にインパクトをもたらす項目から優先的にDDを行う。
    4. 対象企業の業種: 業種によって見るべきポイントは異なる。
    5. 対象企業の属性: 上場企業の基礎データの信頼性は比較的高い。オーナー企業には特有の論点がある。大企業の子会社の場合は、スタンドアローン問題がある。
    6. ストラクチャ: 株式譲渡の場合は、簿外負債も買い手に移転するので、DDで簿外負債、偶発夫妻、税務関連の詳細な調査が必要。事業譲渡の場合は、その辺りの重要性は低くなる。カーブアウトの場合は、特有の論点がある。
  • (5) DDの発見事項に関する対処
      • ディールブレーカー -> 迅速に撤退
      • 税務申告上の問題 -> 株式買収から事業譲渡に切り替える
      • 大きな係争案件に伴う偶発債務のリスク -> 当該偶発債務に係る将来の損失については親会社が補償する条項を入れる
      • 合理的に定量化出来る発見事項 -> 価格や事業計画に反映する
      • 定量化に馴染まない発見事項
        • オーナーの属人的なスキルに業績が依存している -> 顧問契約の検討
        • 新製品の開発にかなり投資しているが、その収益化計画の蓋然性が評価できない -> 親会社に損失分を補償させる、ガッツフィーリングでリスクプレミアムを追加する
  • (6) 基礎的事項の調査
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  • (7) ビジネスDD
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    • 正常収益力の確認
      • 過去・現在の収益性を調べ、マーケットや競合と比較する。
      • 通常の状態で持続可能な収益力を見極める。特殊事情は排除する。
    • ビジネスの分析ツールと仮説検証アプローチ
      • ファイブフォース分析やPPM分析など
      • 積み上げ型・帰納法的アプローチではなく、仮説検証型のアプローチで行かないと時間が足りなくなる。
    • KPI
      • KPIツリーの確認と各KPIの推移・変動要因を分析する。
    • Value-up余地とシナジー
      • 予めシナジー発現に係る仮説を立て、ビジネスDDの中で検証する。
  • (8) 財務DD
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    • ビジネスDDとの連携──過去の正常収益力
      • 過去の正常収益力の検証に必要な管理会計データの正確性の程度を評価し、ビジネスDDチームにフィードバックするとともに、その是正やデータの作り直しを行う。
      • ビジネスDDの前提となる作業なので優先的に行う。
    • 財政状況の調査──資産の含み損益と簿外負債
      • 不在の発見は極めて困難。全DDチームは簿外負債の兆しを見つけたら即共有するのが肝要。
    • キャッシュフローの調査──正常運転資金
    • 設備投資の分析
    • 税務DD: 偶発債務の原因になるので注意
  • (9) 法務DD
    • 重要な契約書の内容調査、違法事項の有無の確認、知財権に係る問題点の把握、訴訟や係争の有無とその内容の分析、偶発債務の有無の確認、等
  • (10) 人事DD
    • 経営陣や事業運営上のキーパーソンの状況、人事制度の整備・運用状況、報酬やインセンティブ制度、年金や福利厚生、採用や離職、労務問題などの状況、等
  • (11) その他のDD
    • ITDDが重要。
    • 工場用地など環境汚染リスクのある資産がある場合は環境DDを行う。

6 企業価値評価

  • (1) M&Aにおいて企業価値評価が必要となる背景
    • 買収価格の内部検討
    • 利害関係者への説明
    • 証券取引所や財務局等の機関や当局への説明
  • (2) 企業価値評価のアプローチ
    1. マーケット・アプローチ: 株式市場やM&A市場における株価や取引価額を基準に評価するアプローチ
      • 株式市価法
      • 株価倍率法
      • 類似取引比準法
    2. インカム・アプローチ: 将来/過去のキャッシュフローや損益を基準に評価するアプローチ
      • DCF法
      • 収益還元法
      • APV法
    3. コスト・アプローチ: 企業の純資産の時価評価額等を基準に評価するアプローチ
      • 修正純資産法
  • (6) シナジー効果を含む投資価値の評価
    • シナジーの評価額と、対象企業/事業単独の評価額を加算すれば、買い手としてのポケットの総額が決まる。
  • (7) フェアネスオピニオン
    • ディールの妥当性を第三者に評価してもらう。
    • 取締役会の善管注意義務・忠実義務の履行を担保する手続き。
    • 少数株主と経営者との間に利害相反の関係が存在する場合に実施されることが多い。

7 契約

  • 最終契約書は、DD後に最終交渉を経て締結される、法的拘束力を持つ合意文書。
  • 内容は取引形態により異なる。
  • 会社法上の組織再編行為を用いたM&Aの場合は、会社法に定められた記載事項を含む必要がある。
  • 株式/事業の譲渡によるM&Aの場合は、比較的自由に作成できる。

  • (1) 株式譲渡契約の主要記載事項

    1. 取引の基本条件
    2. 取引の実行方法: プレ・クロージング -> クロージング
    3. 表明保証
    4. 取引実行条件
    5. 保証
    6. 誓約: 英米法の契約に含まれるコベナンツに起因する概念で、取引を実行する上での守るべきこと、やってはならないことを規定する。(例: 役員の交代、競業避止、勧誘禁止、等)
    7. 解約・終了: 契約締結日から取引実行(クロージング)までの間に、数ヶ月の期間が設けられることが多い。この間に、なんらかの想定に反する事態が生じた場合に、取引を白紙に戻すための規定。

8 クロージングとPMI

  • (1) クロージング後の対応
    • クロージング前に出来るだけリスクを把握・管理しておくのが理想だが、容易ではない。
    • クロージング後は、対象企業の情報に対するアクセス範囲も格段に広がるので、クロージング後に Confirmatory DD を実施して、早期に問題点とリスクの把握に努めるべき。
  • (2) PMI
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    • M&Aの目的 -> ストラクチャリング -> DD -> PMI計画
    • DDでPMI計画を策定するためのネタを拾う。
    • PMIの成否は契約前に決まっている。
    • 最もハードルが高いのが、同業他社同士の合併。ビジネスやプロセスに重複がある場合は、より周到な準備が必要。
    • 統合計画書: M&Aの目的、将来像、統合に関する基本理念、基本方針(組織・プロセス・人事等)、統合の目的と成果(定量的目標を含む)、統合スキームと統合の範囲、統合スケジュール、統合推進組織とマネジメント体制、統合プロジェクトチームの組成、等
    • 統合詳細計画書: 統合計画書を詳細化したもの。Day1マネジメント / Day100プラン / Day180プラン。
    • Day1マネジメント
      • コミュニケーション計画: 社内(経営層・現場マネージャ層・スタッフ層)、社外(顧客/取引先/当局/投資家/...)
      • 業務プロセス上の対応
        • 顧客向けサービス
        • バックオフィス: 財務、経理、総務、システム、ガバナンス、組織、人事、IT、等
      • トラブルシューティング体制
    • Day100プラン / Day180プラン
      • PMOと統合推進組織: ステコミをサポートする機能。各統合分科会の活動を促進・統制する。
      • 組織とガバナンス
        • 本来Day1までに決めるべき事項。
        • ハンズオンとハンズオフの両極端の間のどの位置のガバナンス体制とするかを決める。
        • 海外の企業を買った時は、財務・投資・経営陣の評価などは日本から派遣する取締役に管掌させ、その他は現地経営陣に任せるスタイルが多い。
        • PMIのやり方やスコープは、組織構造やガバナンスにより影響を受ける。
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      • TOM (Target Operation Model): ボトムアップでは決まらないので、成長戦略からのトップダウンで決める。早く決めないと現場が混乱する。
      • 人事
        • ガバナンス・組織・TOMをインプットとして、人的資源の配置を検討する。
        • f:id:mas178:20190117212110p:plain
      • 事業戦略・シナジー
        • シナジーを発現させるためのアクションプランの策定
        • KPIの再検討・再設計
        • 各組織・各人の目標設定・評価基準の策定
      • 管理会計・業績管理
      • 財務・会計
      • 内部統制
      • ITシステム
      • 企業文化
        • 新しい企業文化を両社で構築するというマインドセット
        • いくつかの軸で企業文化を評価する。個人主義/チーム主義、中央集権/分権、フォーマル/インフォーマル、人材/プロセス、現状維持/革新、全体コンセンサス主義/少グループ活動、結果重視/将来重視、オープン/クローズド、社内競争/社内協力、政治的/率直、細部主義/実用主義、等。

第4章 M&Aストラクチャリング

1 M&Aに用いられる取引形態

2 M&Aストラクチャリング上の基本的な論点

  • (1) 選択取得 vs 包括継承
  • (2) 別法人の維持 vs 法人格の即時統合
  • (3) 現金対価 vs 株式対価

3 M&Aストラクチャリングに係る税務上の論点

4 M&Aストラクチャリングに係る会計上の論点

  • (1) 個別財務諸表における会計処理
  • (2) 連結財務諸表における会計処理
  • (3) IFRSにおける会計処理

5 その他の論点の進め方

  • (1) M&Aストラクチャリングに係る法務上の論点
  • (2) M&Aストラクチャリングの進め方

第5章 企業再生とM&A

1 企業再生におけるM&Aの活用

2 企業再生スキームの類型

3 企業再生におけるM&Aに特有の論点と対処法

  • (1) 簿外負債
  • (2) 正常収益力
  • (3) 利害関係者との交渉
  • (4) 投資後の経営

第6章 クロスボーダーM&A

1 増加するクロスボーダーM&A

アウトバウンドM&Aの成功率は決して高くない。どうすれば成功率を高められるのか、以下で見ていく。

2 アウトバウンドM&A (IN-OUT M&A)

  • 失敗のパターン

      1. 買うべきでない会社を買ってしまった。
      2. 1.1. オリジネーションの失敗
      3. 1.2. DDの失敗
      1. 買うべき会社では会ったが、適正価格を大幅に上回る価格で買ってしまった。
      1. 買うべき会社を適正価格で取得したが、PMIに失敗した。
  • (1) 買収後どのように経営するか

    • PMIの難しさ
      • いきなり日本人が買収先企業を経営するのは難しいから、ガバナンスだけを日本人がやって、従来の経営者に経営を任せるパターンが多い。
        • 人材の流動性が高いから、経営者もやめる可能性がある。
      • 従来の経営者は、自分たちのやり方を変えたがらない。
        • しかし、M&Aでプレミアムを上乗せした価格を、その事業につけているので、違うことをする(シナジーを生み出す)必要がある。
  • (2) IN-OUT案件におけるDDの難しさ

    • 規制・税法、労働力の質や労働組合との関係など、IN-INと比べて論点が多く、信頼できるコンサルが必要。
  • (3) 「案件」を見送るための仕組みづくり

    • 実行ありきではなく、客観的な撤退ラインを明確にする。例えば、Walk away price (上限価格) を、EBITDAの何倍などといった指標で設定する。
  • (4) シナジーの罠

    • シナジーの見積もりは、IN-INの場合よりも更に保守的に行う。
  • (5) クロスボーダーM&AにおけるPMI成功のポイント

    1. 買収後の経営/PMIに対する意識の低さ
    2. 経営戦略や経営方針の伝達
    3. 対象企業の経営陣の動機づけ
      • 広範囲の経営陣に対する、リテンションとリワード・インセンティブに関する具体的な計画が必要。
    4. ガバナンス
      • まずは自社のスタンダードの適用を検討するが、合理的な理由があれば、ローカルルールの適用を認める余地はある。十分な事前協議が必要。
    5. 買い手 / 対象企業間のコミュニケーション
    6. 企業文化の融和
      • 互いのカルチャーをぶつけ合うのではなく、どのような普遍的な価値観に根ざしてカルチャーが出来上がっているのかを相互に理解することが肝要。
    7. 人材登用
      • 企業文化が最も目に見える形で現れるのは、人材登用に関する判断を行うとき。