M&Aがわかる (知野雅彦, 岡田光)
- 作者: 知野雅彦,岡田光
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2018/06/16
- メディア: 新書
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- M&Aの全体像がコンパクトに分かりやすくまとまっている。M&A担当になったら一冊目に読むべき本。
- 統合分科会を組成してPMIを進めるような規模のM&Aを主に想定しているようなので、より小規模のM&Aに関しては別の本で補足が必要。
第1章 経営戦略とM&A
1 M&Aとは
- 合併: 企業Aと企業Bの法人格を一つにする行為。
- 買収: 企業Aが企業Bの全部/一部を買う行為。
- 合併も広い意味では買収の一形態。MとAの違いにあまり大きな意味はない。
- 提携 (Alliance)
2 経営戦略とM&A
3 M&Aの目的と効果
目的
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- シナジー: ある項目とその他の項目が関連付けられることにより実現される相乗効果。事業シナジーと財務シナジーに大別され、事業シナジーはさらに、収益シナジーとコストシナジーに分けられる。
- 財務シナジー: 例えば、信用力の高い企業Aが、信用力の低い企業Bを買収した場合、資金調達をAが集中して行い、調達資金をBに転貸すれば、Bの資金調達コストを下げることができる。比較的短期間に確実に実現することができる。
- 財務シナジーと比して、事業シナジーの実現難易度は高い。
- M&Aマーケットが競争的になっており、買取価格が高騰している。なので、事業シナジーを実現しないとビジネスケースが成り立たないことが多い。
- 買い手が想定しているシナジー価値の43%を売り手に支払うことが多い。
シナジーを発現させる方法
4 M&Aと事業売却・分離
- 仲間を売るといったウェットな感じになって、売り時を逃すケースが散見される。
- 売却先とジョイントベンチャーを組成して、段階的な持ち分低下を経て完全売却するスキームが有効なこともある。
5 M&Aをめぐる利害関係者
6 M&Aをサポートするプロフェッショナル
- ファイナンシャル・アドバイザー (FA)
- 法律事務所
- 会計事務所
- 財務・税務DD、買収ストラクチャの会計・税務麺からの検討、SPAに関する会計・税務面からのサポート、Valuation、PPA (Purchase Price Allocation)、等。
- 規模の大きいファームは、FA業務、ビジネスDD、将来事業計画シミュレーション支援、PMI計画策定、PMI実行支援、等も行う。
- 戦略コンサルティングファーム
- M&Aを戦術として用いるに至るそもそもの企業戦略立案支援、ビジネスDD、事業計画シミュレーション支援、等。
- 不動産鑑定会社
- 人事コンサルティングファーム
- 対象企業の経営陣や従業員はM&Aで非常に不安定な状況になる。彼らの不安を取り除き、安定した環境をいち早く作ることがPMIの要諦。
- この前提となる情報を提供するのが人事DD。
- ITコンサルティング会社
- 対象企業のITシステムを包括的に整理・理解するITDD、IT統合計画策定、IT統合実行支援。
第2章 M&Aの類型
1 IN-IN、IN-OUT、OUT−IN
2 水平的M&A、垂直的M&A、CVC、JV
- (1) 水平的M&A: 調達コスト削減、拠点の統廃合によるコスト削減、等
- (2) 垂直的M&A: バリューチェーンの変革による成長性・収益性の向上
- (3) CVC: 外部イノベーションの取り込み。例えば、アーリーステージの事業にマイノリティ投資で入り、事業の可能性に見極めが付いたら、マジョリティ投資に切り替える。
- (4) JV: 離婚条件を予め合意しておくことが重要
3 M&Aの手法──各種組織再編手法
4 MBO
- 経営陣による自社の買収
- 上場会社の非公開化MBOが典型的
5 敵対的買収
- 敵対的とは元経営陣に対して敵対的であるということ。株主にとってはメリットがある場合もある。
第3章 M&Aのプロセス
1 一般的なM&Aプロセスの概要
買い手側のプロセスは、大きく分けて次の3つのプロセスによって構成される。
売り手側のプロセス (オークション形式による売却プロセス)
- 会社の売却方法には、会いたい方式とオークション方式がある。
- 買い手が多く付きそうな事業であれば、オークション方式が良いことが多い。
- 売り手として買い手に要望しなければならない事項が多く存在する複雑なディールの場合には、相対方式の方が良いことが多い。
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- 相互にDDを行う。
- こちらから要求したことは、相手からも要求される。
2 案件ソーシング (ロングリストからM&A対象へのアプローチまで)
- (1) 案件ソーシングのポイント
- (2) M&A対象企業の選定手続き
- (3) 対象へのアプローチ
- (4) 秘密保持契約書 (CA) の締結
- (5) 持ち込み案件への対応
3 エグゼキューション・フェーズにおける初期検討
- 初期ストラクチャリング
- 初期バリュエーション
4 基本合意書 (LOI / MOU)
- DDの実施やPMOなどにそれなりのコストが掛かるので、一定期間の独占交渉権を要求するのが普通。
- LOIには法的拘束力を持たさないのが普通。
5 デューデリジェンス (DD)
- (1) DDの種類
- 分野別: ビジネスDD、財務・税務DD、法務DD、ITDD、人事DD、不動産DD、環境DD、等
- 買い手が行うDDをバイヤーDD、売り手が行うDDベンダーDDという。
- フェーズ別
- Preliminary DD: LOI締結前の限定的な情報で行うDD
- Full DD: LOI後の本格的なDD
- Confirmatory DD: 最終契約締結後に追加的に行うDD。最終契約の中で規定する。
- (2) DDの目的
- (3) DDのプロセス
- (4) DDスコーピングにおけるポイント
- M&Aの目的: 全部を見ることはできないので目的を達成できるかどうかという観点から対象を絞ってDDを行う。
- 取得する持分割合: 割合が高いほど深く広いDDが必要。売り手は最小限にしたいという心理が働く。
- 企業価値評価の方法: 企業価値評価方法を予め定めた上で、その計算にインパクトをもたらす項目から優先的にDDを行う。
- 対象企業の業種: 業種によって見るべきポイントは異なる。
- 対象企業の属性: 上場企業の基礎データの信頼性は比較的高い。オーナー企業には特有の論点がある。大企業の子会社の場合は、スタンドアローン問題がある。
- ストラクチャ: 株式譲渡の場合は、簿外負債も買い手に移転するので、DDで簿外負債、偶発夫妻、税務関連の詳細な調査が必要。事業譲渡の場合は、その辺りの重要性は低くなる。カーブアウトの場合は、特有の論点がある。
- (5) DDの発見事項に関する対処
- (6) 基礎的事項の調査
- (7) ビジネスDD
- (8) 財務DD
- (9) 法務DD
- 重要な契約書の内容調査、違法事項の有無の確認、知財権に係る問題点の把握、訴訟や係争の有無とその内容の分析、偶発債務の有無の確認、等
- (10) 人事DD
- (11) その他のDD
- ITDDが重要。
- 工場用地など環境汚染リスクのある資産がある場合は環境DDを行う。
6 企業価値評価
- (1) M&Aにおいて企業価値評価が必要となる背景
- 買収価格の内部検討
- 利害関係者への説明
- 証券取引所や財務局等の機関や当局への説明
- (2) 企業価値評価のアプローチ
- (6) シナジー効果を含む投資価値の評価
- シナジーの評価額と、対象企業/事業単独の評価額を加算すれば、買い手としてのポケットの総額が決まる。
- (7) フェアネスオピニオン
7 契約
- 最終契約書は、DD後に最終交渉を経て締結される、法的拘束力を持つ合意文書。
- 内容は取引形態により異なる。
- 会社法上の組織再編行為を用いたM&Aの場合は、会社法に定められた記載事項を含む必要がある。
株式/事業の譲渡によるM&Aの場合は、比較的自由に作成できる。
(1) 株式譲渡契約の主要記載事項
8 クロージングとPMI
- (1) クロージング後の対応
- クロージング前に出来るだけリスクを把握・管理しておくのが理想だが、容易ではない。
- クロージング後は、対象企業の情報に対するアクセス範囲も格段に広がるので、クロージング後に Confirmatory DD を実施して、早期に問題点とリスクの把握に努めるべき。
- (2) PMI
- M&Aの目的 -> ストラクチャリング -> DD -> PMI計画
- DDでPMI計画を策定するためのネタを拾う。
- PMIの成否は契約前に決まっている。
- 最もハードルが高いのが、同業他社同士の合併。ビジネスやプロセスに重複がある場合は、より周到な準備が必要。
- 統合計画書: M&Aの目的、将来像、統合に関する基本理念、基本方針(組織・プロセス・人事等)、統合の目的と成果(定量的目標を含む)、統合スキームと統合の範囲、統合スケジュール、統合推進組織とマネジメント体制、統合プロジェクトチームの組成、等
- 統合詳細計画書: 統合計画書を詳細化したもの。Day1マネジメント / Day100プラン / Day180プラン。
- Day1マネジメント
- コミュニケーション計画: 社内(経営層・現場マネージャ層・スタッフ層)、社外(顧客/取引先/当局/投資家/...)
- 業務プロセス上の対応
- 顧客向けサービス
- バックオフィス: 財務、経理、総務、システム、ガバナンス、組織、人事、IT、等
- トラブルシューティング体制
- Day100プラン / Day180プラン
- PMOと統合推進組織: ステコミをサポートする機能。各統合分科会の活動を促進・統制する。
- 組織とガバナンス
- 本来Day1までに決めるべき事項。
- ハンズオンとハンズオフの両極端の間のどの位置のガバナンス体制とするかを決める。
- 海外の企業を買った時は、財務・投資・経営陣の評価などは日本から派遣する取締役に管掌させ、その他は現地経営陣に任せるスタイルが多い。
- PMIのやり方やスコープは、組織構造やガバナンスにより影響を受ける。
- TOM (Target Operation Model): ボトムアップでは決まらないので、成長戦略からのトップダウンで決める。早く決めないと現場が混乱する。
- 人事
- ガバナンス・組織・TOMをインプットとして、人的資源の配置を検討する。
- 事業戦略・シナジー
- シナジーを発現させるためのアクションプランの策定
- KPIの再検討・再設計
- 各組織・各人の目標設定・評価基準の策定
- 管理会計・業績管理
- 財務・会計
- 内部統制
- ITシステム
- 企業文化
第4章 M&Aストラクチャリング
1 M&Aに用いられる取引形態
2 M&Aストラクチャリング上の基本的な論点
- (1) 選択取得 vs 包括継承
- (2) 別法人の維持 vs 法人格の即時統合
- (3) 現金対価 vs 株式対価
3 M&Aストラクチャリングに係る税務上の論点
4 M&Aストラクチャリングに係る会計上の論点
- (1) 個別財務諸表における会計処理
- (2) 連結財務諸表における会計処理
- (3) IFRSにおける会計処理
5 その他の論点の進め方
第5章 企業再生とM&A
1 企業再生におけるM&Aの活用
2 企業再生スキームの類型
3 企業再生におけるM&Aに特有の論点と対処法
- (1) 簿外負債
- (2) 正常収益力
- (3) 利害関係者との交渉
- (4) 投資後の経営
第6章 クロスボーダーM&A
1 増加するクロスボーダーM&A
アウトバウンドM&Aの成功率は決して高くない。どうすれば成功率を高められるのか、以下で見ていく。
2 アウトバウンドM&A (IN-OUT M&A)
失敗のパターン
- 買うべきでない会社を買ってしまった。
- 1.1. オリジネーションの失敗
- 1.2. DDの失敗
- 買うべき会社では会ったが、適正価格を大幅に上回る価格で買ってしまった。
- 買うべき会社を適正価格で取得したが、PMIに失敗した。
(1) 買収後どのように経営するか
(2) IN-OUT案件におけるDDの難しさ
- 規制・税法、労働力の質や労働組合との関係など、IN-INと比べて論点が多く、信頼できるコンサルが必要。
(3) 「案件」を見送るための仕組みづくり
- 実行ありきではなく、客観的な撤退ラインを明確にする。例えば、Walk away price (上限価格) を、EBITDAの何倍などといった指標で設定する。
(4) シナジーの罠
- シナジーの見積もりは、IN-INの場合よりも更に保守的に行う。
(5) クロスボーダーM&AにおけるPMI成功のポイント
- 買収後の経営/PMIに対する意識の低さ
- 経営戦略や経営方針の伝達
- 対象企業の経営陣の動機づけ
- 広範囲の経営陣に対する、リテンションとリワード・インセンティブに関する具体的な計画が必要。
- ガバナンス
- まずは自社のスタンダードの適用を検討するが、合理的な理由があれば、ローカルルールの適用を認める余地はある。十分な事前協議が必要。
- 買い手 / 対象企業間のコミュニケーション
- 企業文化の融和
- 互いのカルチャーをぶつけ合うのではなく、どのような普遍的な価値観に根ざしてカルチャーが出来上がっているのかを相互に理解することが肝要。
- 人材登用
- 企業文化が最も目に見える形で現れるのは、人材登用に関する判断を行うとき。