都市空間の経済学 第2章 家計の住居選択 (2.1 はじめに / 2.2 住居選択の基本モデル)
2.1 はじめに
- 家計は住居選択 (どこに住むか?) に関する意思決定を行う。
- この意思決定は予算制約の元で、近接性・空間・環境の快適性の3つの要因が関係するトレードオフとみなせる。
- 近接性: 通勤、友人宅への訪問、買い物、その他の活動に要する金銭および時間費用が含まれる。
- 空間: 住宅自体の規模と質、土地
- 環境の快適性: 学校の質や安全性、人種構成などの近隣特性、眺望などの自然特性
- 本書では、近接性と空間の間のトレードオフのみをモデル化する。環境に関しては別書参照。
2.2 住居選択の基本モデル
近接性と空間の間のトレードオフを取り扱うモデルを基本モデルとする。
都市地域の空間的特性に関する仮定
- 都市は単一の中心を持つ。中心を中心業務地区 (CBD)と呼ぶ。全ての雇用機会はCBDに存在する。
- 放射状の密な交通システムが存在し、混雑することはない。さらに、唯一の交通は、住居と職場の間を通勤する労働者によるものである。(CBD内の交通は無視される)
- 土地は特色のない平野に存在し、その全てが同質的であり、住宅地にすぐ利用できる。地方公共財や近隣外部性は存在しない。
このような文脈で家計にとって重要な空間特性はCBDからの距離のみである。よって都市空間は1次元として扱える。
一般的な消費者行動分析と同様に、家計は予算制約に従って効用を最大化するものと仮定する。効用関数を と表す。
- : 土地以外の全ての消費財を含む合成財の量。
- 合成財は価値尺度財に選ばれており、したがってその価格は1である。(???)
- : 土地の消費もしくは住宅の敷地規模 (lot size)。
予算制約は で与えられる。
- : 家計の1期間当りの所得
- : 家計とCBDとの距離
- : 距離における土地1単位当りの地代
- : 距離における交通費用
- : 距離における純所得
式2.1 住居選択の基本モデル
家計の住居選択を s.t. と表すことができる。
この本で使ってるモデルは全てこの基本モデルとその拡張。
仮定2.1 適切な性質をもつ効用関数
効用関数は連続であり、全ての z > 0 および s > 0 において増加する。
また、全ての無差別曲線は滑らかで厳密に凸であり、軸と交わらない。
仮定2.2 距離の増加関数としての交通費用
交通費用 は の連続関数であり、全ての距離 r >= 0 において増加している。但し、 である。
以下の分析において仮定2.1と仮定2.2は常に成り立つものとする。その他、U(z, s)はzとsに関して2回連続微分可能、 は に関して連続微分可能などの暗黙の仮定もある。
図2.1 消費空間と無差別曲線
式2.2〜4 効用関数と合成財関数
効用水準 を、 について解くと、 の様に表される。
は敷地規模が の場合に効用水準 を達成するために必要な合成財の量。
式2.3では効用水準 について、自明なことが説明されている。すなわち、
- : 敷地規模 を固定して、合成財 を増やせば、効用 は増える。
- : 合成財 を固定して、敷地規模 が増やせば、効用 は増える。
式2.4でも合成財関数 について、自明なことが説明されている。すなわち、
- : 敷地規模 を固定して、効用水準 を増やせば、合成財 は増える。
- : 効用水準 を固定して、敷地規模 を増やせば、合成財 は減る。
尚、 は と の間の 限界代替率 (MRS) と呼ばれる。
式2.5 無差別曲線の凸性
無差別曲線の厳密な凸性は、MRSが に関して減少している、つまり を意味する。
式2.6 交通費用関数の逓増
同様に、交通費用関数が に関して増加しているということは、 を意味する。
式2.1が意味する最適化問題を直接解くことによって、住居選択を分析することができる。しかし、次節で説明する『付け値』という概念を導入するとより豊かで洗練された分析ができる。