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ゲーム理論・入門 新版 (岡田章) 第10章 グループ形成と利得分配

ゲーム理論 新版 が難しすぎたので、ゲーム理論・入門 新版--人間社会の理解のために (有斐閣アルマ) から読むことにした。

ゲーム理論・入門 新版--人間社会の理解のために (有斐閣アルマ)

ゲーム理論・入門 新版--人間社会の理解のために (有斐閣アルマ)

  • 作者:岡田 章
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2014/09/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

09章 交渉ゲームでは 2 人のプレイヤーの交渉問題を考えたが、この章では、3 人以上のプレイヤーの交渉問題と、このゲームにおける解概念としてコアやシャープレイ値を説明する。

3 人以上の交渉問題の定式化

  • 3 人以上の交渉問題において、協力を目的として作られるプレイヤーのグループを提携という。
  • ある提携  S に対して提携の価値  v(S) を対応させる関数  v特性関数という。
  • プレイヤーの集合  N と特性関数  v の組  (N, v) で表されるゲームを、提携形  n 人ゲームまたは特性関数形  n 人ゲームという。
  • 互いに交わらない2つのどんな提携  S と提携  T に対しても  S T の価値の合計より  S T を合併した提携  S \cup T の価値の方が大きいか等しい時、すなわち  v(S) + v(T) \leq v(S \cup T) であるとき、特性関数は優加法的であるという。また、優加法的な特性関数を持つゲームを、単に優加法的ゲームという。

例1: 起業ゲーム

  • プレイヤーA, B, C ( N = {A, B, C}) が共同で起業しようとしている。
  • プレイヤーが可能な提携は全部で7通り。
    •  1 人提携:  \{A\}, \{B\}, \{C\}
    •  2 人提携:  \{A, B\}, \{B, C\}, \{C, A\}
    •  3 人提携:  \{A, B, C\}
  • 各提携に対する収益は下記の通り。
    •  v(\{A\}) = 60, \: v(\{B\}) = 40, \: v(\{C\}) = 20
    •  v(\{A, B\}) = 200, \: v(\{B, C\}) = 100, \: v(\{C, A\}) = 150
    •  v(\{A, B, C\}) = 240
  • 優加法性の確認。
    • どの2人も1人だけで起業したときの2人の収益の和より、2人共同で起業した時の収益の方が大きい。
      •  v(\{A\}) + v(\{B\}) = 100 \lt v(\{A, B\}) = 200
      •  v(\{B\}) + v(\{C\}) =  60 \lt v(\{B, C\}) = 100
      •  v(\{C\}) + v(\{A\}) =  80 \lt v(\{C, A\}) = 150
    • 2人で起業した時の収益と残りの1人が単独で起業した時の収益の和よりも、3人共同で起業した時の収益の方が大きい。
      •  v(\{A, B\}) + v(\{C\}) = 220 \lt v(\{A, B, C\}) = 240
      •  v(\{B, C\}) + v(\{A\}) = 160 \lt v(\{A, B, C\}) = 240
      •  v(\{C, A\}) + v(\{B\}) = 190 \lt v(\{A, B, C\}) = 240

2 人の交渉問題の分析と同じ様に、提携形  n 人ゲームの分析には、協力ゲーム理論によるアプローチと非協力ゲーム理論によるアプローチ (戦略的アプローチ) がある。

協力ゲーム理論によるアプローチ

  • 2人の交渉問題の解と同様、協力ゲーム理論の基本的な公理としてパレート最適個人合理性がある。
  • 協力ゲーム理論では、パレート最適個人合理性の2つの性質を満たす利得ベクトルを、ゲームの配分という。
  • 優加法的なゲームにおいて、プレイヤーの利得ベクトル  x = (x_1, \cdots, x_n) x_1 + \cdots + x_n \leq v(N) を満たす時、 x は ( N に関して) 実現可能であるという。
  • パレート最適
    • 実現可能な2つの利得ベクトル  x = (x_1, \cdots, x_n) y = (y_1, \cdots, y_n) に対して、 x y よりパレート優位である ( x y を支配する) とは、全ての  i \in N に対して  x_i \gt y_i が成り立つことをいう。
    • 提携形  n 人ゲームの実現可能な利得ベクトル  xパレート最適であるとは、 x よりパレート優位な他の実現可能な利得ベクトル  y が存在しないことである。
    • また、優加法的ゲームにおいてパレート最適であるとは、 x_1 + \cdots + x_n = v(N) ということである。
  • 個人合理性
    • 提携形  n 人ゲームの実現可能な利得ベクトル  x が個人合理性を満たすとは、全ての  i \in N に対して  x_i \geq v(\{i\}) が成り立つ時をいう。
    • 右辺の  v(\{i\}) は、プレイヤーが他の誰とも協力しない時の利得。左辺の  x_i は他のプレイヤーと何らかの協力をして得られる利得。つまり、全てのプレイヤーにとって、単独でいるよりも、何らかの協力をした方が、同等かより大きな利得が得られるということを示している。
  • 図形的には、 x_1 + x_2 + x_3 = v(\{1, 2, 3\}) を満たす3人ゲームの配分は高さ  v(\{1, 2, 3\}) の正三角形で表される。
    • f:id:mas178:20200120003047p:plain

コア

  • 協力ゲームの代表的な解がコアである。
  • また、提携合理性とは、個人合理性の考え方を提携レベルに拡張し、もし利得ベクトル  x において、ある提携  S の全メンバーの利得の合計が提携  S だけで獲得可能な総利得  v(S) より小さいならば、提携  S (もしくはそのメンバー) は利得ベクトル  x に合意しないという考え方である。
  • 定義 10.3
    提携形  n 人ゲームの実現可能な利得ベクトル  x が提携合理性を満たすとは、 N の全ての提携  S に対して、 \displaystyle{\sum_{i \in S} x_i \geq v (S)} が成り立つ時をいう。
  • 定義 10.4
    提携形  n 人ゲームのコアとは、提携合理性を満たす配分の集合である。
  • 定理 10.1
    優加法的ゲームでは、コアは他の配分に支配されない配分の集合と等しい。

例1: 起業ゲーム

起業ゲームのコアを計算する。

コアは次の等式および不等式を満たす。

  •  x_A + x_B + x_C = 240
  •  x_A + x_B \geq 200
  •  x_B + x_C \geq 100
  •  x_C + x_A \geq 150
  •  x_A \geq 60
  •  x_B \geq 40
  •  x_C \geq 20

これを、1人提携の利得の値が0になるように、 y_A = x_A - 60 y_B = x_B - 40 y_C = x_C - 20 と変数変換をすると、下記の様になる。このような変換をゼロ正規化と呼ぶ。

  •  y_A + y_B + y_C = 120
  •  y_A + y_B \geq 100
  •  y_B + y_C \geq 40
  •  y_C + y_A \geq 70
  •  y_A \geq 0
  •  y_B \geq 0
  •  y_C \geq 0

これを解くと、

  •  y_A + y_B + y_C = 120
  •  0 \leq y_A \leq 80
  •  0 \leq y_A \leq 80
  •  0 \leq y_A \leq 80

となる。これがこのゲームのコアである。図形で表すと下記三角形内の濃いブルー部分となる。

また、ゼロ正規化前の変数で表すと、

  •  x_A + x_B + x_C = 240
  •  60 \leq x_A \leq 140
  •  40 \leq x_B \leq 90
  •  20 \leq x_C \leq 40

となる。これは何を意味しているかと言うと、例えば

  • コアの範囲外の配分  x_1 = (100, 80, 60) だと、AとBだけで起業した場合200万円得られるはずなので、AとBはこの配分に納得しない。
  • コアの範囲内の配分  x_2 = (110, 90, 40) だと、全てのメンバーにとって3人で起業することが最適となるので、この配分に納得する。

つまり、コアとは、どのプレイヤーも不満を持たない配分の集合である。

例2: 多数決ゲーム

コアを持たないゲームの例として多数決ゲームを考える。

3人での多数決ゲームは次の様に定式化できる。

  •  v(\{1\}) = v(\{2\}) = v(\{2\}) = 0
  •  v(\{1, 2\}) = v(\{2, 3\}) = v(\{3, 1\}) = 1
  •  v(\{1, 2, 3\}) = 1

このゲームの提携合理性を満たす配分の条件は、

  •  x_1 + x_2 + x_3 = 1
  •  x_1 + x_2 \geq 1
  •  x_2 + x_3 \geq 1
  •  x_3 + x_1 \geq 1
  •  x_1 \geq 0
  •  x_2 \geq 0
  •  x_3 \geq 0

である。ここで、2〜4番目の式の両辺を足すと  x_1 + x_2 + x_3 \geq \frac{3}{2} となり、1番目の式に矛盾するので、提携合理性を満たす配分の集合は空集合であり、コアは存在しない。つまり、どんな配分であれ常に誰かが不満を持つ。

定理 10.2
ゼロ正規化された3人ゲームのコアが存在するための必要かつ十分条件は、
 v(\{1, 2\}) + v(\{2, 3\}) + v(\{3, 1\}) \leq 2v(\{1, 2, 3\})
が成り立つことである。

シャープレイ値

コアとともに代表的な協力解にシャープレイ値がある。シャープレイ値はコアとは異なり、常にただ一つだけ存在する。

例1: 起業ゲーム

シャープレイ値の計算方法を起業ゲームの例で見ていく。

特性関数を再掲する。

  •  v(\{A\}) = 60, \: v(\{B\}) = 40, \: v(\{C\}) = 20
  •  v(\{A, B\}) = 200, \: v(\{B, C\}) = 100, \: v(\{C, A\}) = 150
  •  v(\{A, B, C\}) = 240

シャープレイ値は、3人が順に起業に参加するとして、各プレイヤーが参加すると、どれだけ収益を増やすか (限界貢献度) に注目する。起業に参加する順番によって各プレイヤーの限界貢献度は変わってくるが、各順序は同じ確率で実現すると想定して、各順序の限界貢献度の平均値を算出する。この値をシャープレイ値という。

参加順序 Aの限界貢献度 Bの限界貢献度 Cの限界貢献度
A -> B -> C 60 140 40
A -> C -> B 60 90 90
B -> A -> C 160 40 40
B -> C -> A 140 40 60
C -> A -> B 130 90 20
C -> B -> A 140 80 20
平均値 115 80 45

シャープレイは、パレート最適性、ナルプレイヤー、対称性、加法性という4つの公理を満たす唯一の配分がシャープレイ値として導かれることを証明した。

  • ナルプレイヤーの公理: どんな提携に対する限界貢献度も0であるプレイヤー (ナルプレイヤー) のシャープレイ値は0である。
  • 対称性の公理: 全ての提携に対する限界貢献度が等しい2人のプレイヤー (対称なプレイヤー) のシャープレイ値は等しい。
  • 加法性の公理: 2つのゲーム  u v の和として定式化されるゲーム  u + v のシャープレイ値は、それぞれのゲームのシャープレイ値の和である。

非協力ゲーム理論によるアプローチ (戦略的アプローチ)

9章と同様に、交渉のプロセスをダイナミックなゲームとして定式化し、協力ゲーム理論による協力解が非協力ゲーム理論による均衡点 (ナッシュ均衡点や部分ゲーム完全均衡点) によって実現できるかどうかを考える。特に、コアやシャープレイ値が公理として前提とするパレート最適性が交渉ゲームの均衡として実現できるかどうかに注目する。尚、優加法的ゲームでは、パレート最適性は全体提携の形成を意味する。

例3: 3人対称ゲーム

ゲームの状況

  • プレイヤー集合は  N = \{1, 2, 3\}
  • 特性関数は、
    •  v(\{1\}) = v(\{2\}) = v(\{3\}) = 0
    •  v(\{1, 2\}) = v(\{2, 3\}) = v(\{3, 1\}) = a (但し、 0 \lt a \lt 1)
    •  v(\{1, 2, 3\}) = 1

つまり、「3人が協力すると全体で利得1が得られる。2人だけの協力では1より小さい利得aが得られる。協力しない時の利得は0。この時、どの様な提携が形成され、利得はどの様に分配されるだろうか?」という問題を考える。

ダイナミックなゲームとして定式化

  • このゲーム状況は、交互提案ゲームとして定式化できる。
  • 誰が提案者になるかは交渉に大きな影響を持つので、提案者はランダムに選ばれるものとする。
  • 交渉のルール
    1. 提案者がランダムに選ばれる。
    2. 選ばれた提案者は、提携とその利得分配を提案する。
    3. 提携の他のメンバーが順次、提案を受け入れるかどうかを選択する。
    4. もし全員が提案を受け入れるならばゲームは終了。もし誰かが提案を拒否すれば、1に戻る。
  • 将来利得に対する割引因子を  \delta とする。
  • この交渉ルールはランダムな提案者ルールと呼ばれている。

部分ゲーム完全均衡点

ここでは、どの交渉ラウンドでもプレイヤーは同じ戦略を採用する定常部分ゲーム完全均衡点に注目して、全員提携が形成される条件を求める。

  • プレイヤー  i の期待利得  v_i の条件
    • 被提案プレイヤーは、 \delta v_i 以上の利得を提案されたらそれを受け入れるのが合理的である。なぜなら、交渉を拒否すれば、交渉は次のラウンドに進み、プレイヤー  i の割引期待利得は  \delta v_i となるからである。
    • 従って、もしプレイヤー1が提案者に選ばれた場合は、3人提携の利得分配として  (1 - \delta v_2 - \delta v_3, \delta v_2, \delta v_3) を提案し、プレイヤー2と3はこれを受け入れる。
    • これにより、プレイヤー1の期待利得は  v_1 = \frac{1}{3} (1 - \delta v_2 - \delta v_3) + \frac{2}{3} \delta v_1 となる。右辺第1項は、提案者の時の利得、第2項は被提案者のときの利得を示している。
    • この式を変形し、プレイヤー2と3に関しても同様に考えると、下記が成り立つ。
      •  (3 - 2 \delta ) v_1 + \delta v_2 + \delta v_3 = 1
      •  \delta v_1 + (3 - 2 \delta ) v_2 + \delta v_3 = 1
      •  \delta v_1 + \delta v_2 + (3 - 2 \delta ) v_3 = 1
    • これを解くと、 v_1 = v_2 = v_3 = \frac{1}{3} となる。
  • a の条件
    • また、全員提携が2人提携よりも最適な提案であるためには、 1 - \frac{2}{3} \delta \geq a - \frac{1}{3} \delta である必要がある。ここで左辺は、全員提携を提案する時の提案者の利得であり、右辺は2人提携を提案する時の利得である。
    • これを解くと、 1 - \frac{1}{3} \delta \geq a となる。
    • そして、割引因子  \delta が限りなく1に近い、つまりプレイヤーが忍耐強いとき、 a \leq \frac{2}{3} が成り立つ。
    • 定理 10.2 (ゼロ正規化された3人ゲームのコアが存在するための必要かつ十分条件は、 v(\{1, 2\}) + v(\{2, 3\}) + v(\{3, 1\}) \leq 2v(\{1, 2, 3\}) が成り立つことである) より、これは、3人対称ゲームのコアが存在するための必要かつ十分条件である。

以上をまとめると、割引因子が限りなく1に近い時、ランダムな提案者ルールをもつ交渉ゲームの定常部分ゲーム完全均衡点において、3人対称ゲームの全員提携が形成されるための必要かつ十分条件は、ゲームのコアが存在することである。この時、プレイヤーの均衡期待利得は  \frac{1}{3} であり、提携内の分配は均等分配  (\frac{1}{3}, \frac{1}{3}, \frac{1}{3}) となる。

これにより、3人対称ゲームでは、コアが存在するならば全員提携の形成が合意されるが、コアが存在しないゲームでは全員提携の成立は必ずしも保証されないことが分かる。

市場ゲーム

市場の取引も協力ゲームの応用として考えることができる。

例4: 1人の売り手と2人の買い手

ゲームの状況

  • プレイヤーAは自転車を売りたいと思っている。
  • プレイヤーBとCはAの自転車を値段によっては買いたいと思っている。
  • プレイヤーAは自分の自転車を5,000円と評価しており、5,000円以上ならば売っても良いと考えている。
  • プレイヤーBとCの評価額は、それぞれ6,000円と7,000円であり、この価格以下なら買っても良いと考えている。

さて、プレイヤーAの自転車を、誰がいくらで買うだろうか?

定式化

特性関数は、

  •  v(\{A\}) = 5 v(\{B\}) = v(\{C\}) = 0
  •  v(\{A, B\}) = 6 v(\{A, C\}) = 7 v(\{B, C\}) = 0
  •  v(\{A, B, C\}) = 7

と表すことができ、これをゼロ正規化すると、

  •  v(\{A\}) = v(\{B\}) = v(\{C\}) = 0
  •  v(\{A, B\}) = 1 v(\{A, C\}) = 2 v(\{B, C\}) = 0
  •  v(\{A, B, C\}) = 2

となる。

協力解

コアの条件は、

  •  x_A + x_B + x_C = 2
  •  x_A + x_B \geq 1
  •  x_B + x_C \geq 0
  •  x_C + x_A \geq 2
  •  x_A \geq 0
  •  x_B \geq 0
  •  x_C \geq 0

となり、これを解くと、

  •  x_A + x_C = 2
  •  x_B = 0
  •  1 \leq x_A \leq 2

となる。

これは、取引はプレイヤーAとCとの間で成立し、取引価格は6,000円から7,000円の間の任意の価格となることを示している。

また、これは経済学の価格理論における競争均衡配分とも一致する。