読書メモ

個人的な読書メモ。それ以上でも以下でもありません。

都市空間の経済学 第3章 均衡土地利用と最適土地利用: 単一家計タイプのケース

3.1 はじめに

2章では、各家計が都市においてどのように住居選択をするのかを考えてきた。

3章では、都市全体について考える。たくさんの家計が都市を利用する場合どうなるか?を考える。

ここでは、均衡土地利用と最適土地利用という概念が重要となる。

  • 均衡土地利用: 都市にいる家計が自分たちの効用を最大にするように行動した場合、どのような土地利用になるか?
  • 最適土地利用: その街全体の効用の総和が最も高くなるのはどういう時か?

3.2 予備的考察: 付け値関数の代替的表現

本章での分析の便宜上、これまでと式の構成を変える。

これまでのアロンゾの付け値関数  \Psi (r, u) は、ソローの付け値関数  \psi (I, u) に置き換える。

アロンゾの付け値最大化敷地規模  S(r, u) は、ソローの付け値最大化敷地規模関数  s (I, u) に置き換える。

やっていることは、純所得  Y - T(r) から純所得  I に置き換えているだけ。

性質2.1 は下記の様に書き換えられる。

性質 2.1 (再掲)

性質 2.1 (i): 付け値  \Psi (r, u) は、 r および  u に関して連続であり、またこれらの増加とともに ( \Psi がゼロになるまで) 減少する。

性質 2.1 (ii): 付け値最大化敷地規模  S(r, u) は、 r および  u に関して連続であり、またこれらの増加とともに ( S が無限大になるまで) 増加する。

性質 3.1

性質 3.1 (i): 付け値  \psi (I, u) は、 I に関して連続的に増加し、 u に関して ( \psi がゼロになるまで) 連続的に減少する。

性質 3.1 (ii): 付け値最大化敷地規模  s(I, u) は、 I に関して連続的に減少し、 u に関して ( s が無限大になるまで) 連続的に増加する。

性質 3.1を式で表すと、

 \dfrac{\partial \psi}{\partial I} = \dfrac{1}{s} \gt 0

 \dfrac{\partial \psi}{\partial u} = - \dfrac{1}{s} \dfrac{\partial Z}{\partial u} \lt 0

 \dfrac{\partial s}{\partial I} = \dfrac{\partial \tilde{s}}{\partial R} \dfrac{\partial \psi}{\partial I} \lt 0

 \dfrac{\partial s}{\partial u} = \dfrac{\partial \hat{s}}{\partial R} \dfrac{\partial \psi}{\partial u} \gt 0

となる。

3.3 均衡土地利用

ここでは、外部から力を加えなければ、都市は都市としてどの様な状態になるのか? (均衡状態) を考える。

均衡を分析するための仮定

市場モデルには、2つのモデルがある。

  • 閉鎖都市モデル (closed-city model): 人口が定数として与えられる (外生的に与えられる)。
  • 開放都市モデル (open-city model): 人口を変数として考える。
    • 家計が無費用で都市の境界を超えて移動できると仮定する。
    • このモデルにおいて、家計が都市に入るということは、都市の方が農村と比べて効用が高いということを意味する。

土地の所有形態にも、2つのモデルがある。

  • 不在地主所有モデル (absentee ownership model): 土地からの収入が外部の地主に入る。
  • 公的所有モデル (public ownership model): 土地からの収入が都市住民間で等しく分配される。

土地利用を数学モデルにするために以下を仮定する。

  • 完全情報を前提とした競争的土地市場が存在する。
  • 市場参加者にとって、地代は所与とする。
  • 都市を取り巻く条件は時間を通じて変化しない (定常的均衡)。
  • 都市を同心円として考える。
    • 中心はCBD。
    • r はCBDからの距離。
    •  r における土地の量は  L(r) で表され、円周を意味する。
      •  r における土地は幅を持たないので面積はゼロ。
      • 面積を知るためには  L(r)積分すれば良い ( 2 \pi r → \pi r^2)。
    •  L(r) はすべての  r \geq 0 において連続であり、また各  r > 0 において正である。(仮定3.1)
    •  L(r) r に関して連続微分可能であると仮定する。
  • 家計によって専有されない土地は、一定の地代  R_A を生む農業に使用されるとする。フォン・チューネンのモデルにおいて、これは農業の付け値を表す。つまり、住宅利用している土地における利得を考える際に、もし農地として利用していれば得られたであろう利得を、機会費用として考えるということだ。

ケース1: 不在地主所有のもとでの閉鎖都市モデル (CCAモデル)

閉鎖都市モデルなので人口は  N 人に固定して考える。

家計は2.1の基本モデルに従う。

均衡では、全ての家計が立地店に関係なく同一の最高効用水準を達成しなければならない。そうじゃなければ、別の意思決定を行う家計が存在するはずなので、均衡しない。

均衡において達成される共通の最大効用を均衡効用水準と呼び、 u^* で表す。これがこのモデルにおける未知数。 また、 R(r) を均衡において成立する市場地代曲線とする。前章で定義された間接効用関数を用いれば、 u^* R(r) は以下の関係式を満たす。

 u^* = \max_r V (R(r), Y - T(r)) \tag{(3.8)}

つまり、 u^* は、市場地代曲線  R(r) の元で、都市内で達成できる最大効用であるということ。 Y は家計の所得で、 T(r) は距離  r における交通費。

距離rにおける家計の分布を n(r)で表す。

  • これは人口密度的な概念。幅をもたせて積分したら(面積を求めたら)人口が分かる。
  • つまり、距離  r r+d の間に住む家計の数は  n(r) dr となる。
  •  n(r)積分したら Nになる。

ここで、 n(r) > 0 は、最適立地点として距離  r を選択する家計が存在することを意味する。すると以下が言える。

  • 市場地代曲線  R(r) = \psi (Y - T(r), u^*)     ( n(r) > 0のとき)
    • もしそこが都市だったら、市場地代は付け値に等しい。
    • 均衡水準  u^* は、 R(r) = \psi (Y - T(r), u^*) のときに実現される。
  • 市場地代曲線  R(r) \geq \psi (Y - T(r), u^*)     (全ての  r に対して)
    • 全ての場合、市場地代の方が付け値よりも大きい。
    • 家計がどこに立地しても均衡水準  u^* より高い効用を得ることができないことを意味している。

同様に、農地の均衡は以下を要求する。

  •  R(r) = R_A (農地で)
  •  R(r) \geq R_A (全ての  r に対して)

図で表すと以下の様になる。

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  • 横軸はCBDからの距離。
    • 土地利用のパターンは住宅か農業で、原点 (CBD) から距離  r_f の間の土地は住宅として利用され、その外側は農地として利用される。
    • 言い換えると、均衡においては、各地点は最高の付け値を与える活動によって利用される。
    • 住宅地にN人住んでいる。
    • どこが都市境界距離  r_f になるか、利得  u^* がいくらになるかが分からない。
  • 縦軸は地代。
    • 農地ではCBDからの距離に関係なく、土地から  R_A の利得しか得られない。
    • 住宅地では、土地から  \psi (Y - T(r), u^*) の利得を得ることができる。
    • 土地から  R_A 以上の利得を得られるとき、土地は住宅として利用され、それ以下だと農地になる。

これを数式で表すと下記の様になる。(式3.13)

  •  R(r) = \max \{ \psi (Y - T(r), u^*), R_A \}

また、下記の様に表すこともできる。(式3.14)

  •  R(r) = \psi (Y - T(r), u^*)    ( r \leq r_f)
  •  R(r) = R_A          ( r \geq r_f)

この  R(r) の様に、複数のグラフのなかで最大の線をつないだものを上位包絡線という。

このモデルにおける未知数は家計数  N と均衡水準  u^*

この未知数は、下記の2式によって制約される。

人口制約

 \int_0^{r_f} \dfrac{L(r)}{s(Y -T(r), u^*)} dr = N \tag{(3.17)}

境界条件

 \psi (Y - T(r_f), u^*) = R_A \tag{(3.18)}

方程式が二本あって未知数が2つなので解ける。以下に解き方のイメージを示す。

  • まずNを固定してuを出す。
  • で、境界地代曲線 (式3.20)を書く。これは、この曲線上は必ずN人住んでるという曲線になる。
  • この曲線と  R = R_A の交点が r_f となる。
  • この r_fを通るように地代曲線を書くと答えが出る。

命題3.1: 任意の所得  Y > T(0) および人口  N > 0 のもとで、CCAモデルに唯一の均衡が存在する。

関数を明示すると簡単で、例3.1の場合だと答えは式3.26の様になる。

式3.26は、この都市モデルでは、地代 R は人口 N に比例し、敷地規模  s は人口 N に反比例するということを言っている。

ケース2: 不在地主所有のもとでの開放都市モデル (OCAモデル)

解くのはケース1よりケース2の方が簡単。ケース1での変数は  N u だったが、ケース2では  N が変数で、 u は定数となる。他の設定は同じ。

まず、上限効用水準  \tilde{u}(Y) は下記のように定義される。これは要するに都心での効用水準を意味している。

 \psi(Y - T(0), \tilde{u}(Y)) = R_A \tag{3.27}

全国での効用水準が  u という定数で与えられるなら、都市境界距離  r_f は以下の関係式で決まる。

 \psi(Y - T(r_f), u(Y)) = R_A \ \ \ \ \ \ \ \ (u \lt \tilde{u}(Y) のとき) \tag{3.28}

 r_f = 0  \ \ \ \ \ \ \ \ (u \geq \tilde{u}(Y) のとき) \tag{3.29}

 r_f が決まれば、均衡地代曲線は下記の様になる。

 R(r) = \psi(Y - T(r), u) \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.30}

 R(r) = R_A \ \ \ \ \ \ \ \ (r \geq r_f のとき) \tag{3.30}

そして均衡敷地規模は下記の様になる。

 s(r) = s(Y - T(r), u) \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.31}

そして均衡家計分布は下記の様になる。

 n(r) = \dfrac{L(r)}{s(r)} \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.32}

 n(r) = 0 \ \ \ \ \ \ \ \ (r > r_f のとき) \tag{3.32}

最後に均衡人口  N^* は、以下の様に求められる。

 N^* = \int_0^{r_f} n(r) dr \tag{3.33}

グラフは図3.2と同様。

命題3.2: 任意に与えられた家計所得  Y > 0 および全国的効用水準  u のもとで、OCAモデルに唯一の均衡は存在する。均衡における都市の人口が正になるための必要十分条件 u \lt \tilde{u}(Y) である。

尚、効用水準は人口が少ないほうが上がる。なぜなら土地代が安くなるから。感覚的にそう感じないのは、人口が増えると所得が増えることが多いから。ここは所得が一定というモデル。

ケース3: 公的所有のもとでの閉鎖都市モデル (CCPモデル)

公的所有を仮定する際に想定しているシナリオはこうだ。

  • 都市住民が都市政府を形成し、都市政府が農地所有者から農業地代  R_A で都市用地を借りている。
  • 都市政府は、都市用地を競争市場で決定される地代  R(r) で都市住民に貸し与えている。
  • 都市政府が得る地代から支払う地代を差し引いたものを総差額地代と呼び、 TDR = \int_0^{r_f} (R(r) - R_A) L(r) dr と定義する (式3.34)。
  • 都市政府は都市住民のものだから、総差額地代 (TDR) は、都市住民に均等に分配される。

従って、各家計の住居選択行動は以下のように定式化される。(但し、 Y^0 は非土地所得を表す記号で、Yのゼロ乗ではない。)

 \max_{r, z, s} U (z, s) \ , \ \ \ \ \ s.t. \ z + R(r) s = Y^0 + \dfrac{TDR}{N} - T(r) \tag{3.35}

CCAモデルやOCAモデルの均衡条件における  Y - T(r) Y^0 + \dfrac{TDR^*}{N} - T(r) に置き換えたものが、CCPモデルの均衡値になる。(但し、 TDR^* TDR の均衡値である。)

 R(r) = \psi(Y^0 + \dfrac{TDR^*}{N} - T(r), u^*) \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.36}

 R(r) = R_A \ \ \ \ \ \ \ \ (r \geq r_f のとき) \tag{3.36}

 s(r) = s(Y^0 + \dfrac{TDR^*}{N} - T(r), u^*) \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.37}

 n(r) = \dfrac{L(r)}{s(r)} \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.38}

 n(r) = 0 \ \ \ \ \ \ \ \ (r > r_f のとき) \tag{3.38}

 N^* = \int_0^{r_f} n(r) dr \tag{3.39}

 TDR^*は未知なので、解は容易に出すことはできないが、下記命題3.3は言える。

命題3.3: 任意に与えられた非土地所得  Y^0 \gt T(0) および人口  N \gt 0 に対して、CCPモデルに唯一の均衡が存在する。

ケース4: 公的所有のもとでの開放都市モデル (OCPモデル)

ケース4はケース3とほとんど同じ。

違いは、ケース3での変数は  TDR^* だったが、ケース4では  TDR^* N^* が変数となる点。

よって、ケース3の一連の数式の  N N^* に変えればケース4の数式になる。

命題3.4: 任意に与えられた非土地所得  Y^0 \gt 0 および全国的効用水準  u のもとで、OCPモデルに唯一の均衡が存在する。均衡における都市の人口が正になるための必要十分条件は、 u \lt \tilde{u}(Y^0) である。

4つのモデルの関係

命題3.6: 各パラメータが以下の条件を満たす場合、

  •  Y > T(0)
  •  Y^0 > T(0)
  •  N > 0
  •  u \lt \tilde{u}(Y)
  •  u \lt \tilde{u}(Y^0)

あるタイプのどんなモデルの解も別の適当なモデルの解として求められる。従って、4つのタイプのモデルは同一の解集合を有する。

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図の読み方は以下の通り。

  • CCA -> OCA:  u^* がCCAモデルの均衡効用水準ならば、CCAモデルの解はOCAモデルの解である。
  • OCA -> CCA:  N^* がOCAモデルの均衡人口ならば、OCAモデルの解はCCAモデルの解である。
  • CCA -> CCP:  TDR^* がCCAモデルの解における総差額地代ならば、CCAモデルの解はCCPモデルの解である。
  • CCP -> CCA:  TDR^* がCCPモデルの解における総差額地代ならば、CCPモデルの解はCCAモデルの解である。

3.4 最適土地利用

もともと各家計の効用を最大化するのが均衡なので、均衡=最適では? その通りだが、条件によってはそうじゃないこともある。 そういう分析を当節でやっていく。

ハーバート=スティーブンスのモデル (HSモデル)

最適と均衡は似てるけど概念として別だ。 最適というからには目的関数が必要。

空間の問題が考慮されない場合は、みんなの効用の総和を最大化するベンサム流の社会的厚生関数を最大化するのが普通だが、土地利用の問題において、ベンサム流は不適切だ。 それは、同質的な家計に対して立地点に応じて異なる効用水準を割り当てることになるからだ。

これは、空間の導入がもたらす非凸性によって生じる独特な現象だ。 非凸性とは、渋谷と新宿に20㎡ずつの広さの住居を持つより、渋谷に40㎡の広さの住居を持ってるほうが効用が高いということ。

結論として、土地利用の最適化問題の定式化には、ハーバート=スティーブンスのモデル (HSモデル) を使う。 このモデルでは、同じタイプの家計は同じ効用でなければならないという「等効用制約」の元で、全ての家計タイプについて、指定された目標効用水準を実現しながら余剰を最大化する。

HSモデルの前提を確認しておく。

  • 同質的な  N 家計が存在する、閉鎖都市モデル。
  •  U(z, s): 各家計の効用関数 ( - \infty \lt U(z, s) \lt \infty)
  •  T(r): 効用費用関数
  •  L(r): 土地の分布
  • 家計によって利用されない土地は農業に利用され、土地1単位当り  R_A の純収入 (地代) を生んでいるとする。
  •  n(r): 距離  r における家計の数
  •  (z(r), s(r)): 距離  r における各家計の消費の組
  •  r_f: 都市境界距離
  •  Y^0: 都市の一人あたり所得。土地利用パターンからは独立に決定される定数とする。

目標効用水準に関する制約

全ての家計はどこに立地しようとも、目標効用水準  \bar{u} を達成するように  Z s を選ばなければならない。 これを数式で表すと下記の条件を満たさなければならないことを意味する。下記の2条件は同等。

  •  U(z(r), s(r)) = \bar{u} \ \ \ \ \ (n(r) > 0 のとき)
  •  z(r) = Z(s(r), \bar{u}) \ \ \ \ \ (n(r) > 0 のとき)

ここで、 Z(s(r), \bar{u}) は、 \bar{u} = U(z(r), s(r)) z に関する解である。

従って、都市内の総費用  C = 交通費用 + 合成財費用 + 土地の機会費用 は、以下の様に計算される。

 C = \int_0^{r_f} [ T(r) + Z(s(r), \bar{u}) + R_A s(r) ] n(r) dr  \tag{3.45}

また、各配分は、以下の土地制約および人口制約も満たさなければならない。

 s(r) n(r) \leq L(r) \ \ \ \ \ (各 r \leq r_f において) \tag{3.46}

 \int_0^{r_f} n(r) dr = N (都市の総人口) \tag{3.47}

以上の条件や定義を踏まえて、最適化問題を下記の様に定義することができる。

 \min_{r_f, n(r), s(r)} C = \int_0^{r_f} [ T(r) + Z(s(r), \bar{u}) + R_A s(r) ] n(r) dr \tag{3.48}

都市の所得  N Y^0 は一定なので、総費用を最小化するのが最適になる。これを解くわけだが、このままだとちょっとやりにくいので余剰 ( \mathscr{S} = 都市の総所得 - 都市の総費用) という概念を導入する。コストの最小化は余剰の最大化と同等。

 \max_{r_f, n(r), s(r)} \mathscr{S} = \int_0^{r_f} [ Y^0 - T(r) - Z(s(r), \bar{u}) - R_A s(r) ] n(r) dr \tag{3.49}

これがHSモデルである。

補償均衡

CCAモデルにおいて、各家計の所得は定数 Yに固定され、各家計は効用を最大化するように立地点と消費の組を選択する。 その結果、あらゆる地点で土地の需給がバランスし、しかも全ての家計が同一の最高効用水準を達成する場合に均衡に達する。 この様な均衡を競争均衡と呼ぶ。

これに対して、補償均衡では次の様な問題を考える。 政府が N家計全てについてある特定された目標効用水準  \bar{u} を競争的土地市場を通じて実現しようとしていると仮定する。 全ての家計は同一の課税前所得  y^0 を得ているが、政府は自由に定額の所得税  G を各家計に課すことができるものとする ( G \lt 0 の場合は所得補助)。 つまり、間接効用関数が  \bar{u} になるように所得税が決定されねばならない。 所得税  G が与えられた時、各家計の住居選択行動は、下記の様に表される。

 \max_{r, z, s} U (z, s) \ \ \ \ \ s.t. z + R(r) s = Y^0 - G - T(r)  \tag{3.51}

そして、 R(r), n(r), s(r), r_f, G^* で目標効用水準  \bar{u} が実現される補償均衡を表すための必要十分条件は、下記の条件 (3.52) 〜 (3.55) を満たすことである ((3.30)〜(3.33) や (3.36)〜(3.39) とほぼ同型)。

 R(r) = \psi(Y^0 - G^* - T(r), \bar{u}) \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.52}

 R(r) = R_A \ \ \ \ \ \ \ \ (r \geq r_f のとき) \tag{3.52}

 s(r) = s(Y^0 - G^* - T(r), \bar{u}) \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.53}

 n(r) = \dfrac{L(r)}{s(r)} \ \ \ \ \ \ \ \ (r \leq r_f のとき) \tag{3.54}

 n(r) = 0 \ \ \ \ \ \ \ \ (r > r_f のとき) \tag{3.54}

 N = \int_0^{r_f} n(r) dr \tag{3.55}

ここで未知数となっているのは  G^* r_f の2つで、 これらは、条件式 (3.52) から導かれる下式と、条件式 (3.55) により決定される。

 \psi (Y^0 - G^* - T(r_f), \bar{u}) = R_A \tag{3.56}

HSモデルの解

命題3.7:  (R(r), n(r), s(r), r_f, G^*) HS(Y^0, \bar{u}, N) モデルの解となるための必要十分条件は、それが目標効用水準  \bar{u} のもとで補償均衡になることである。

命題3.8: 任意に与えられた  Y^0 \bar{u} および  N > 0 に対して、 HS(Y^0, \bar{u}, N) モデルは唯一の解を有する。従って、各目標効用水準  \bar{u} のもとで補償均衡が一意的に存在する。

3.5 均衡と最適

命題3.9:  (R(r), n(r), s(r), r_f, G^*) HS(Y^0, \bar{u}, N) モデルの解となるための必要十分条件は、  (R(r), n(r), s(r), r_f, \bar{u}) CCA(Y^0 - G^*, N) モデルの解となることである。

命題3.10: 任意の CCA モデルの競争均衡は効率的である (第一厚生定理)。 また、等効用制約のある任意の効率的配分は、適当な所得税または補助金を選ぶことにより競争的市場を通じて実現できる (第二厚生定理)。

命題3.11: CCA、CCP、OCA および OCP の4タイプのどの均衡モデルでも、その解は効率的 (最適) である。

これらの関係をグラフにすると図3.7になる。 総差額地代  TDR と 余剰  \mathscr{S} が、たまたま一致したところがCCAモデルの解になる。 たまたま 余剰  \mathscr{S} がゼロになったところがCCPモデルの解になる。

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3.6 比較静学

前節までで様々な都市モデルを作った。 せっかくモデルを作ったので、パラメータを変えてモデルの挙動を色々調べてみようというのが当節。

CCAモデル (不在地主所有のもとでの閉鎖都市モデル) を前提とする。

尚、表記上の簡潔さから、ソローのではなく、アロンゾの付け値関数 \Psi (r, u)と付け値最大化敷地規模 S(r, u)が用いられる。

3.6.1 農業地代および人口の変化の効果

命題 3.12

農業地代  R_A が上昇すると、

  1. 都市境界  r_f は内側に移動し、
  2. 均衡効用水準  u^* は低下し、
  3. 地代曲線  R(r) はあらゆる地点で上昇し、
  4. 敷地規模  S(r, u^*) はあらゆる地点で小さくなる。従って、新たな都市境界の内側では人口密度はあらゆる地点で上昇する。

要するに、農業地代の上昇により市場地代曲線があらゆる地点で押し上げられ、そのために一人あたりの土地消費が減少するのである。

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  • 農業地代が  R_A^a から  R_A^b に上昇したとする。
  • 境界地代曲線  \hat{R}(r) は不変。
  • 付け値曲線が上昇し、都市境界が内側に移動することが分かる。(1, 3)
  • より高い位置の付け値曲線は、より低い効用水準に対応している。(2)
  • 付け値最大化敷地規模  S(r, u) u の増加関数だから、付け値最大化敷地規模は減少する。(4)

命題 3.13

都市の人口が増加すると、

  1. 都市境界  r_f は外側に移動し、
  2. 均衡効用水準  u^* は低下し、
  3. 地代曲線  R(r) は新たな都市境界までのあらゆる地点で上昇し、
  4. 敷地規模  S(r, u^*) はあらゆる地点で小さくなる。従って、新たな都市境界の内側では人口密度はあらゆる地点で上昇する。

要するに、人口の増加は宅地需要を増大させるが、宅地需要の増大はあらゆる地点で地代を上昇させるとともに、都市境界を外側に移動させる。

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  • 人口が増えても所得は一定。