読書メモ

個人的な読書メモ。それ以上でも以下でもありません。

都市空間の経済学 第2章 家計の住居選択 (2.3 家計の付け値関数)

付け値と付け値最大化敷地規模の定義

定義2.1 付け値

付け値  \Psi (r, u) は所与の効用水準  u を維持しつつ、距離rの位置に居住するために家計が支払うことができる土地1単位当りの最高の地代である。

式2.7 付け値の数学的定義1

定義2.1と式2.1の  z + R(r)s = Y - T(r) より、付け値関数は  \Psi (r, u) = max_{z, s} \{ \dfrac{Y - T(r) - z}{s} | U(z, s) = u \} と表される。

つまり、 u を固定して、地代相当分  R(r) を最大化するということ。

  •  z: 土地以外の全ての消費財を含む合成財の量。
  •  s: 土地の消費もしくは住宅の敷地規模 (lot size)。
  •  Y: 家計の1期間当りの所得
  •  r: 家計とCBDとの距離
  •  R(r): 距離 rにおける土地1単位当りの地代
  •  T(r): 距離 rにおける交通費用
  •  u = U(z, s): 効用水準

「付け値」とは「付け値地代」。

式2.8 付け値の数学的定義2

式2.7の効用制約  U(z, s) = u z について解くと、付け値関数は  \Psi (r, u) = max_{s}\dfrac{Y - T(r) - Z(s, u)}{s} と再定義され、制約なしの最大化問題となる。

つまり、土地  s をどれぐらい消費すると、付け値はどれぐらいになるかを表す式になる。

式2.7または式2.8を解くと、最適な敷地規模  S(r, u) が求められるが、これを 付け値最大化敷地規模 (bid-max lot size) と呼ぶ。

式2.9 距離rにおける予算制約

 r における地代を  R で表すと、 r における家計の予算制約は、 z = Y - T(r) - Rs と表される。

図2.2 付け値 Ψ(r, u) と付け値最大化敷地規模 S(r, u)

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図2.2 付け値 Ψ(r, u) と付け値最大化敷地規模 S(r, u)

  • 効用制約  U(z, s) = u と z軸切片  Y - T(r) が固定されている。
  • 付け値  \Psi (r, u) は距離  r において無差別曲線  u に接する予算線の傾きによって与えられる。
  • 式2.9は、図2.2における地代  R の各値のもとで点Aから出る傾き (絶対値)  R の直線を定義する。
  • 地代  R が直線ACの傾きよりも大きければ、予算線は無差別曲線  u の下方に位置する。つまり指定された効用水準  u を達成するためには家計が  R ほども地代を支払うことができない。
  • 地代  R が直線ACの傾きよりも小さければ、予算線は無差別曲線  u と交わる。つまりもう少し高い地代のもとでも家計は効用水準  u を達成することができる。
  • 付け値  \Psi (r, u)、すなわち、家計が効用水準uを達成するとした場合の距離rにおける最大地代は、予算線ACの傾きによって与えられる。
  • 接点Bは、付け値最大化敷地規模  S(r,u) を決定する。

式2.10

式2.8の最大化問題において関数  \dfrac{Y - T(r) - Z(s, u)}{s} は、 s に関するその限界的変化がゼロになるときに  s に関して最大化される。(???)

これにより、以下の関係式を得る。

 -\dfrac{∂Z(s,u)}{∂s} = \dfrac{Y - T(r) - Z(s, u)}{s}

この式を  s について解くと、付け値最大化敷地規模  S(r,u) が得られる。

式2.11

式2.10の右辺は  s の最適値において  \Psi (r, u) に等しくなるため、式2.10は  -\dfrac{∂Z(s,u)}{∂s} = \Psi (r, u) の様に表現することもできる。

これは、図2.2の接点Bにおいて無差別曲線  u の傾き  -\dfrac{∂Z(s,u)}{∂s} (≡ MRS) が予算線ACの傾き  \Psi (r, u) に等しいことを意味している。

付け値  \Psi (r, u) とは合成財関数  Z(s,u) を敷地規模  s偏微分してマイナスを付けたものとも言える。

例2.1, 式2.12〜14

効用関数が  U(z, s) = \alpha \log z + \beta \log s の様に具体的に与えられると、具体的に付け値や付け値最大化敷地規模を計算することができる。

なぜ  \log なのだろうか?これは、心理学的な仮説。20平米の部屋に住んでる人が40平米に住む喜びと、40平米から80平米になった喜びを同じにしたいから  \log を使っている。

「付け値」「付け値最大化敷地規模」と効用最大化問題 (マーシャル) との関係

式2.15 効用最大化問題

地代  R および 純所得  I ( = Y−T(r) = z + R s) (∵ 式2.9) を固定して、「付け値」と「付け値最大化敷地規模」のグラフにおいて、効用を最大化することを考える。つまりグラフの  z 軸切片と線ACの角度  \Psi を固定して、曲線  u を平行移動させるイメージ。数式で表すと、

 max_{z, s} U (z, s) \ , \ \ s.t. \ \ z + R s = I

式2.16 マーシャルの (普通) 需要関数

式2.15を解けば、RとIの関数として最適な敷地規模  \hat{s} (R, I) が得らる。これはマーシャルの (普通) 需要関数と呼ばれる。「付け値最大化敷地規模:  S (r, u)」と同じ概念。

式2.17 間接効用関数

式2.16の最大値は、

 V (R, I) = max_{z, s} { U (z, s) \ | \ z + R s = I }

の様に表され、間接効用関数と呼ばれる。

式2.18〜20

 R = \Psi (r, u) I = Y - T (r) と置くと、式2.15〜17は、それぞれ以下の様になる。

 max_{z, s} U (z, s),  s.t.   z + \Psi (r, u) s = Y - T (r)

 S (r, u) ≡ \hat{s} (\Psi (r, u), Y - T (r))

 u ≡ V (\Psi (r, u), Y - T (r))

要するに、付け値最大化問題 (最適な敷地規模はCBDからの距離効用水準で決まる) と効用最大化問題 (最適な敷地規模は地代純所得で決まる) の答えは一致するということを言っているだけ。なぜなら、変数を入れ替えてるだけだから。

「付け値」「付け値最大化敷地規模」と支出最小化問題 (ヒックス) との関係

式2.21 支出最小化問題

支出最小化問題は、地代  R と効用水準  u から最適な敷地規模を求める問題。

 min_{z, s} (z + R s),  s.t.   U (z, s) = u

式2.22 ヒックスの (補償) 需要関数

式2.21を解くと、地代  R と効用水準  u の関数として最適な敷地規模  \tilde{s} (R, u) が得られる。これは土地に対するヒックスの (補償) 需要関数と呼ばれる。

式2.23 支出関数

式2.21の最小値を  E (R, u) で表せば、以下の様になり、支出関数と呼ばれる。

 E (R, u) = min_{z, s} \{ z + R s \ | \ U (z, s) = u \}

式2.24〜26

 R = \Psi (r, u) と置くと、式2.21〜23は、それぞれ以下の様になる。

 min_{z, s} z + \Psi (r, u),  s.t.   U (z, s) = u

 S (r, u) ≡ \tilde{s} (\Psi (r, u), u)

 Y - T (r) ≡ E (\Psi (r, u), u)

要するに、付け値最大化問題 (最適な敷地規模はCBDからの距離効用水準で決まる) と支出最小化問題 (最適な敷地規模は地代効用水準で決まる) の答えは一致するということを言っているだけ。なぜなら、変数を入れ替えてるだけだから。

効用最大化問題や支出最小化問題の特性は全てよく知られているので、上記の恒等式は強力な分析ツールを我々に与えてくれる。

「付け値」と「付け値最大化敷地規模」が距離 r にともなって、どのように変化するか

効用水準  u を固定し、 r_1 \lt r_2 となる 2 つの距離をとる。

すると、 T (r_1) \lt T (r_2) だから、 Y - T (r_1) \gt Y - T (r_2) である。

また、下図から、 \Psi (r_1, u) \gt \Psi (r_2, u) S (r_1, u) \lt S (r_2, u) であることが分かる。

  •  Y: 家計の1期間当りの所得
  •  r: 家計とCBDとの距離
  •  R(r): 距離 rにおける土地1単位当りの地代
  •  T(r): 距離 rにおける交通費用
  •  Y - T(r): 距離 rにおける純所得

すなわち、距離 r が増えると「付け値」は減少し「付け値最大化敷地規模」は増加する。

r が増えると交通費 T (r) が増えるので、純所得  I = Y - T(r) が減る。そうすると効用水準  u が維持されるとしたら、それは地代が低下する場合だけである。この地代の低下は家計が合成財を土地で代替させていると理解できる。

上記を数式で表すと式2.27と式2.28の様になる。

式2.27 距離 r による「付け値」の変化率

 \dfrac{\partial \Psi (r, u)}{\partial r} = - \dfrac{T' (r)}{S (r, u)} \lt 0

式2.28 距離 r による「付け値最大化敷地規模」の変化率

式2.27 と恒等式  S (r, u) ≡ \tilde{s} (\Psi (r, u), u) を結合して、

 \dfrac{\partial S (r, u)}{\partial r} = \dfrac{\partial \tilde{s}}{\partial R} \dfrac{\partial \Psi (r, u)}{\partial r} = - \dfrac{\partial \tilde{s}}{\partial R} \dfrac{T' (r)}{S (r, u)} \gt 0

「付け値」と「付け値最大化敷地規模」が効用水準 u にともなって、どのように変化するか

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図2.4 効用水準 u の上昇による Ψ(r, u) および S(r, u) の変化

効用水準 u の変化が「付け値」に及ぼす影響

距離  r を固定し、 u_1 \lt u_2 であるような2つの効用水準を選ぶ。無差別曲線  u_2 は無差別曲線  u_1 の上にあるので、 \Psi (r, u_1) \gt \Psi (rm u_2) となる。これは、家計は固定された純所得の元では地代が低下する場合にのみ高い効用水準を達成できるということを表している。

効用水準 u の変化が「付け値最大化敷地規模」に及ぼす影響

図2.4によれば、効用水準  u の上昇は、付け値最大化敷地規模  S (r, u) の増加をもたらす。

このことを理解するために、図2.4において点  B_1 (地代  \Psi (r, u_1) のもとでの当初の消費の組) から 点  B_2 (低下した地代  \Psi (r, u_2) のもとでの新しい消費の組) への移動を  B_1 \rightarrow B_2' \rightarrow B_2 の様に分けて考える。

ここで  B_2' は、地代が  \Psi (r, u_1) に固定されながら所得線が実線から破線に平行移動した場合に得られる消費の組を示している。

「仮定2.3 土地に対するマーシャルの需要への所得効果は正である (正常財としての土地)」より、 B_1 から  B_2' への移動 (すなわち、所得効果) は土地の消費の増加をもたらす。

そして、 B_2' から  B_2 への移動 (すなわち、代替効果) は土地消費の増加をもたらすので、 S (r, u_1) \lt S (r, u_2) となる。

 u に関する付け値の変化率は、以下の通り。(式2.29)

 \dfrac{\partial \Psi (r, u)}{\partial u} = - \dfrac{1}{S (r, u)} \dfrac{\partial Z (s, u)}{\partial u} \lt 0

さらに、恒等式  S(r, u) ≡ \hat{s} (\Psi (r, u), Y -T (r)) を使えば、下式を得る。(式2.30)

 \dfrac{S(r, u)}{\partial u} = \dfrac{\partial \hat{s}}{\partial R} \dfrac{\partial \Psi (r, u)}{\partial u} \gt 0

まとめ

以上の議論をまとめると、以下のように結論できる。

性質 2.1 / 性質 2.2

性質 2.1 (i): 付け値  \Psi (r, u) は、 r および  u に関して連続であり、またこれらの増加とともに ( \Psi がゼロになるまで) 減少する。

性質 2.1 (ii): 付け値最大化敷地規模  S(r, u) は、 r および  u に関して連続であり、またこれらの増加とともに ( S が無限大になるまで) 増加する。

性質 2.2: (付け値曲線は、必ずしも凸であるとは限らないが、) 交通費用関数が距離  r に関して線形または凹で [tex: T''(r) ≡ d2 T (r) / d r2 \leq 0] となるならば、付け値曲線は凸となる。

 \dfrac{\partial ^2 \Psi (r, u)}{\partial r ^2} = - \dfrac{T'' (r)}{S(r, u)} + \dfrac{T' (r)}{S(r, u) ^2} \dfrac{\partial S(r, u)}{\partial r} \tag{2.31}

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性質 2.3

(i)  V (R, I) は、全ての  R \gt 0 および  I \gt 0 において連続である。

(ii)  V (R, I) は、 R の増加とともに減少し  I の増加とともに増加する。

 \dfrac{\partial V (R, I)}{\partial R} \lt 0 \ , \ \ \dfrac{\partial V (R, I)}{\partial I} \gt 0 \tag{2.32}

性質 2.4

 r において、次の関係が成立する。

 V (R (r), Y - T (r)) \gtrless V (\Psi (r, u), Y - T (r)) \rightleftarrows R(r) \lessgtr \Psi (r, u)

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  • 付け値曲線は (距離と地代の次元からなる) 都市空間において定義された無差別曲線である。
  • 恒等式 2.20 ( u ≡ V (\Psi (r, u), Y - T (r))) は、都市の実際の地代曲線  R (r) があらゆるところで付け値曲線  \Psi (r, u) に一致すれば、家計は適当に消費の組を選択することによって、どの立地点においても同じ最大効用  u を達成できることを意味する。したがって、家計はどの立地点に関しても無差別になる。
  • 図2.1の各無差別曲線に対して図2.5の付け値曲線が存在するから、付け値関数は消費空間の無差別曲線を都市空間の対応する曲線に写す変換として考えられる。都市空間で定義されたこれらの無差別曲線をもとに、我々は家計の立地選択を図形的に分析することができる。
  • さらに、付け値曲線は土地1単位当たりの金額として表現されるから、それらは異なる土地利用者の間で比較可能である。したがって、我々は異なる主体の間の土地を求める競争をも都市空間で図形的に分析できることになる。