読書メモ

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最後通告ゲーム

亀田達也『モラルの起源─実験社会科学からの問い』の5章に出てくる最後通告ゲームについてまとめる。

これは、分配の正義 (distributive justice) と、人々の実際の行動の関係について調べる実験で、行動経済学の入門書に必ず出てくるゲームの一つだ。最後通牒ゲームとも言う。

ルール

  • 互いに未知のAさん・Bさんがペアになる。
  • 最初に実験者から、Aさんが1万円を渡され、1万円の分配方法についてBさんに提案するように指示される。
  • 次にBさんはAさんの提案を受け入れるかどうかを決定する。
  • BさんがAさんの提案を受け入れるなら、双方の取り分はそこで確定し、受け入れないなら、双方の取り分はゼロとなる。
  • この実験は、相談なし、意思決定を変更するチャンスなし、役割の交換もなしで、一度だけ行われる。

合理的な戦略とその結果

  • Aは自分の取り分として9,999円を、Bの取り分として1円を提案し、Bはそれを受け入れるというのが合理的な戦略とその結果となる。
  • Aは自分の取り分を9,999円とすることによって効用を最大化し、Bも0円か1円かを選ぶシチュエーションでは1円を選択するほうが合理的だからだ。

実験結果

  • 日本、アメリカ、ヨーロッパなどの大規模産業社会でこの実験を行うと、AはBの取り分として40〜50%の金額を提案し、Bもその提案を受け入れる。
  • しかし、それ以外の小規模社会でこの実験を行った場合、その結果に大きなばらつきが生まれる。
  • 分配提案額の違いは、その社会がどのぐらい市場経済に統合されているか、日常生活でどのぐらい協力が行われているかの違いによって説明できる。

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まとめ

  • 分配の原理は、社会・文化レベルの要因によって規定されている。
  • 市場経済に馴染んでいる者にとって、「等きものは等しく」という市場の倫理が当たり前の規範として作用する。この規範に反するとアンフェアとみなされ、感情的な罰の対象となる。
  • しかし、市場経済に馴染まない者にとって、内集団を大事にする行動こそが正義であり、誰に対しても等しく振る舞う普遍主義は不道徳となるのかもしれない。