読書メモ

個人的な読書メモ。それ以上でも以下でもありません。

公共財ゲーム (public goods game) 実験

亀田達也『モラルの起源─実験社会科学からの問い』 の3章に出てくる公共財ゲーム実験についてまとめる。有名な実験なので、他にも様々な文献で言及されている。例えば、読んでないけど 川越敏司『行動ゲーム理論入門』 など。

オリジナルは、フェアとゲヒター (Fehr & Gächter, 2002) で、社会的ジレンマ、規範と罰、フリーライダー問題、高次のジレンマ問題などに示唆を与えてくれる実験だ。

基本ルール

  • 実験者と4人の参加者がいる。参加者同士については全く情報のない、完全な匿名状態かつ相談は不可能な状態。
  • 次の手順を繰り返す。
    1. 各参加者は毎回20円の元手を与えられる。
    2. 各参加者はX円 (0〜20円の好きな額) を公共財として自由に提供することができる。
    3. 公共財として提供されたX円は、実験者の手で2倍に増やされた上で、いくら公共財として提供したかに関わらず、4人に均等に分配される。

理論的な戦略と結果

  1. 誰も公共財を提供しないなら、各参加者の残高は 20円 のまま変化しない。
  2. 全員が手持ちの20円を全て公共財に提供するなら、公共財は 160円 (= 20円 x 4人 x 2倍) となり、一人当たりの残高は 40円 となる。これが全体最適
  3. 3人は20円を全て公共財に提供し、1人は公共財を提供しないなら、公共財は 120円 (= 20円 x 3人 x 2倍) となり、全員に 30円 が分配されるため、各自の残高は {30円, 30円, 30円, 50円} となる。合計金額は、140円なので全体最適ではないが、公共財を提供しなかった参加者は、2のケースよりも得をしている。

実験結果

  • 実験が進むに従って、参加者の協力レベル (各ターンでの提供額) は下がっていく。(下図左のグラフを参照)

ルールの改定 ─ 罰の導入

ここで「基本ルール」に改定を加え、「罰」を導入する。つまり、協調性のない奴に罰を加えることができるようにする。但し、罰を与える側も、コストを負担する必要がある。

  • 実験者と4人の参加者がいる。参加者同士については全く情報のない、完全な匿名状態かつ相談は不可能な状態。
  • 次の手順を繰り返す。
    1. 各参加者は毎回20円の元手を与えられる。
    2. 各参加者は X 円 (0〜20円の好きな額) を公共財として自由に提供することができる。
    3. (改定ポイント) 参加者は各人の提供額を知らされ、もし望むなら特定の誰かを指名し、相手の手取りから一定の金額を差し引くことができる。しかし、人を罰すにはコストが掛かる。罰する人が Y 円のコストを負担すると、罰される人に  Y \times 2 円のペナルティが与えられる。罰するためのコストおよび罰金は実験者が回収し、罰する人や公共財に戻ることはない。
    4. 公共財として提供されたX円は、実験者の手で2倍に増やされた上で、いくら公共財として提供したかに関わらず、4人に均等に分配される。

罰の導入後の実験結果

  • 第一ターン、つまり、単に罰が与えられる可能性が示されただけで、まだ誰も罰されていない状態で、参加者の公共財への提供は急増した。(下図右のグラフを参照)
  • そして、実験が進むに従って、参加者の協力レベル (各ターンでの提供額) は上がっていく。(下図右のグラフを参照)
  • 参加者の84%が、少なくとも一回は罰を行使した。5回以上罰を行使した参加者は34%。

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ルールの改定 ─ 第三者罰の導入

罰することは短期的には損でも、長期的に全体の協力度が上がってくると得をするので、別に不思議なことではない (合理的な行為だと言える)。何の見返りがなくても、人はズルする奴を罰するのかを確認するために、基本ルールに第三者による罰 (第三者罰) を導入する。

  1. 参加者は、基本ルールで他者がプレイしている様を、第三者として見ている。
  2. もし望むなら特定のプレイヤーを指名し、そのプレイヤーの手取りから一定の金額を差し引くことができる。しかし、人を罰すにはコストが掛かり、罰する人そのコストを負担する。人を罰しても見返りは一切ない。

三者罰の導入後の実験結果

  • 何の見返りがなくても人を罰するプレイヤーが少なからず存在する。
  • 但し、この様なプレイヤーの量や質には、かなりの文化差・社会差が見られる。

まとめ

  • 罰がない状態では、人が社会的ジレンマを解消することは難しい。
  • 罰の導入によって、人の協調性は格段に向上する。
  • 罰することに何の見返りがない場合でも、逆に自分が損する場合でも、人は不正を見つけると罰を与えたがる性質がある。但し、その行動が実際に発現するかどうかには、かなりの文化差・社会差が見られる。
  • 進化時間的に人間の心には、規範と罰への敏感さが組み込まれているようだ。規範に敏感だから、そもそも、ルール違反が起こりにくいし、ルール違反が起きにくいので、罰するコストは低くてすむ。この様に、規範は維持されていく。