読書メモ

個人的な読書メモ。それ以上でも以下でもありません。

社会規範の数理社会学にむけて (2002, 小林盾)

社会規範の数理社会学にむけて (2002, 小林盾)

社会規範の発生を「選好形成」と捉えて、社会規範の内面化をモデル化することを提案する論文。

実際にどうやってモデル化するかが書かれているわけではない。

1. はじめに:情けは人のためならず?

  • 数理社会学には社会規範の発生メカニズムを扱うことが期待されている。
  • そのためには「選好形成の数理モデル」をピンポイントで検討することが有望だろう。
  • 社会規範の発生メカニズムは、これまで社会学ではどう扱われて来たのだろうか? → 2
  • 数理社会学が、社会規範の発生メカニズムを扱うにはどの様な戦略が必要か? → 3, 4

2. 社会規範の発生メカニズム

2.1. 社会のセメント (社会規範とは何か?)

本論での社会規範の定義:
「それ以外の行動もとれるのに、人々が従うべきだと共通に考えて、ある行動をとる」ならば、そこに社会規範があるという。(小林 1992)

例:

  • 猫を猫と呼ぶ。
  • ケーキを分けるときは均等に分けようとする。
  • 勧められた酒は呑む。
  • サービスを受けたらチップを渡す。
  • ブランド物の時計をする。
  • 差別、偏見、、、

2.2. 発生メカニズム (なぜ社会規範の発生メカニズムを解明することが重要なのか?)

なぜ社会規範の発生メカニズムを解明することが重要なのか?

  • 現状の社会規範を相対化することができる。
  • 秩序問題という社会学の根本問題に答えることが期待できる。
  • ミクロな個人行動をマクロな社会的構造へと架橋する手がかりが手に入る。
  • もし解明しないままでいると、人々の行動や社会現象を理解するときに、その動機や原因を誤解する危険がある。

2.3. 社会学における社会規範 (これまで社会学では社会規範をどの様に扱ってきたか?)

これまで社会学では、社会規範を説明変数と捉えるのではなく、独立変数として捉えてきた。その発生メカニズムについても、曖昧なままにしてきた。

しかし、近年、社会規範の発生メカニズムの検討が始まっている。

  • エドナ・ウルマン=マルガリート Ullmann-Margalit 1977 (社会学)
  • Hechter and Opp 2001 (社会学)
  • アクセルロッド Axelrod 1986 (政治学)
  • Kreps, Milgrom, Roberts, and Wilson 1982 (経済学)
  • Binmore and Samuelson 1994 (経済学)

3. 選好形成の数理モデル

3.1. 数理社会学における社会規範

3.2. 選好形成

  • 社会規範の発生メカニズムを、選好形成として形式化することを提案したい。→ 【どうやって?】

3.3. 選好形成の数理モデル

  • 選好形成をモデル化するには新たに数理モデルを開発する必要がある。
  • いくつか使えそうなアイディアはある。(Becker 1992, Sen 1982, Becker 1974, ...)
  • 選好形成をモデル化することには次のメリットがある。
    • 合理的選択理論、ゲーム理論、社会的選択理論など、従来のマイクロな数理社会学の成果を継承することができる。
    • マイクロ・マクロリンクを架橋できる可能性がある。

4. おわりに

4.1. 社会規範の望ましさ

  • 社会規範の発生の数理モデルを作ることによって、社会規範を相対的に評価・検討できるようになる。

4.2. ピンポイントの数理モデル

  • 数理モデルの対象をできるだけ狭く限定することによって、効果的に社会規範を説明したり、数理モデルを経験的にテストすることができる。→ 【なぜ?】
  • 与謝野(1999)は数理モデルより現実を優先させることを、浜田(2001)は数理モデルが体系的であることを目指す。
  • ピンポイントで選好形成を検討することで、民主主義や差別といった様々な社会規範がどう発生したのか、そのメカニズムを解明することが期待できる。